弟は気を使って、お母さんと二人きりにしてくれた。そして、お母さんに全てを話した。
最初は幸せだったのに。光太郎がトイレに行ってから、知らない人に連れてかれそうになったり、先に帰れって言われたり。最悪な出来事ばかり起きたと説明すればお母さんは優しい手つきで私の頭を撫でる。そして私の前にココアを置く。それを1口飲むだけで自然と落ち着いた。
『沢山泣いたら気分悪くなっちゃった...今日は夕飯いらない。』
母「ほんとに?大丈夫??もうご飯できるけど...」
『うん。大丈夫。ありがとうお母さん。』
母「そう??じゃあ、光騎呼んできてもらってもいい?」
『うん。』
母「ありがと」
コンコンコン ガチャッ
『光騎〜?』
弟「あ。姉ちゃん丁度いい所に。あのさこの問題ってどう解いたらいいんだっけ。」
『この問題は...この方程式を使うと簡単だよ。』
弟「あ。ほんとだ。ありがとう」
『うん』
弟「あのさ姉ちゃん。彼氏さんと何があったの?」
『私も光太郎がなんで怒ってるかなんて分かんない。ただ、光太郎がトイレに行ったきり帰ってこなくて知らない人に連れてかれそうになったりして、後輩が助けてくれて、その後後輩くんに電話しろって言われて電話したら先帰ってろって言われたの。』
弟「急に態度が変わるのはおかしいよ。なんかあったんじゃないの?姉ちゃん、このままじっとしてんの?」
『分かんない。』
弟「姉ちゃんがその彼氏さんをどんぐらい好きかなんて俺にはわかんないけど、好きならじっとしてられないんじゃない。少なくとも、姉ちゃんならね」
『...ありがとう光騎。あ。そうだ、もうご飯だって。早く行ってきな。』
部屋に入るとすぐ、あとすこし残っていた合宿の支度をして、そしてベッドに寝っ転がってバレーボールで遊ぶ。
じっとしてられないか...確かにそうかも...
走りに行こうかな。あ、そうだ。光太郎に渡そうと思って買ったストラップどうしようかな。ストラップを握りしめると、私は部屋を飛び出してお母さんと光騎に走りに行ってくるとだけ伝えて無我夢中ではしりだしていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。