この世界では、よく行われる派閥の議題として、風呂は同性で入るか異性と入るかというものがある。
もちろん異性の仲間と一緒に入らない理由などないのだが、何故かこの世界のほとんどの男は、異性と同じ湯に浸かるとそれが仲間でも戦闘状態に写ってしまうことがあるのだ。
「風呂は休憩場なので他の種類の人物が浸かると緊張してしまう・警戒心が生まれるのではないか」という説はあるが、この現象の理由はよくわかってはいない。
元々この世界には、不可解なことというの数多くある。
例えば『何故温度調節が適切な部屋でも服というものを着ている意味があるのか。』だとか、
『男が戦闘状態になる条件は何故あまりにも曖昧なのか』だとか、そして─────。
女子にたまにいる、『あの時感じた感覚はなんのなのか』というあまりにも文章力のない、抽象的な悩みなどである、
自分は長期にわたって悩んでいた。
アーサーの魔法時に感じるあの感覚、特定の体の部位のうずき、体中の体温上昇など。明らかに病気か疑う症状が続いたが、どこの病院で検査しても異常はなかったし、どの医者に聞いてもそんな病名はなかった。
だが、ある日わかったのだ。あの童貞という男が、知識をもつらしいあの男が。
これが、愛の証なのだと。
これが、恥じるべきことでは無いのだと。
これが、2人っきりの時するべきことなのだと。
これが、裸に関わるということ。
これが、相手の許可を取るべきということ。
そして。これが、そしてこの快感は、何故か女性にだけついている必要性が不明な『胸』という部位に関係するということ。
自身のへその下あたりの部位(子宮)を人差し指でなぞる。
驚いた声。ただそれだけ。
そこに謎の違和感を感じるが、微細すぎてわからない。
入浴剤が濃い緑色をだしている風呂からバスタオルも羽織らず出て欲しいと要求した。
今この状態ではまだ……魔法の杖は目視できない。
疑問をもっているのに、妾の言うことを聞きアーサーはお風呂から出る。お風呂の外のタイルが水で濡れ音を立てた。その時、初めてまともに2人が。お互いの裸を見合わせた。
妾も魔法を使う時以外で初めて自主的にアーサーの杖を見ることなったし、アーサー自身も風呂に浸かっている時は妾の裸体は見ていなかった。
……戦闘状態になっている。
それだけのこと、前々から騒がれてること、誰でも知ってる現象の1つ。なのに…
あれ(あの感覚)が病気じゃなくて、愛の証で、恥じることではないという情報をもつだけの妾でも、直感で。1つの『予想』が頭の中を走った。
その予想の内容と、
アーサーの視線が妾の胸に向いていたことと、
そして今妾がアーサーの杖を見ていること。
そんなただの事実、情報だけなのに…。
また、体温が上昇し、興奮状態に陥る。
『見ているだけじゃない、見られてもいる。』
今までとは比べ物にならないほどの電撃が、体中を駆け巡った。
アーサーの反応で、やっと気づいた。
自分のおでこに小さな角が2本、
生えていたことに─────。
『鬼族。
本来絶滅されたと言われている種族だが、人間とのハーフ。他の人にはバレず、興奮状態の時のみ角がはえる者はかつての鬼狩りで生き残り、人間界でまだひっそりとくらしている。』
久しぶりに角がはえたせいだろうか、いや。そう簡単に角ははえない、そもそももっと前から。
脳みそが焼かれたように熱く、考えがまとまらず、ただ『気持ちい、楽しい、嬉しい、このままがいい』といった幼稚園児のような単語だけがうようよと頭の中に浮かぶ。
驚くアーサーの顔は、完全に……今までの妾を見てきた顔とはうってかわっていた。まるで別のものを見るような。そんな目が自分を見つめる。
ならば、もうどうでもいいと。
こんなに熱いからかも分からないが、どうにでもなってしまえと思う。
硬いタイルの床に裸のアーサーを押し倒す。背中が痛いだろうが、気にしている余裕もない。
あれ、なんと言っていただろうか。あの男。裸と胸……それだけか?
今の自分にとっては、どうでもいい言葉だった。
柔らかいだとか一瞬の感触はクソどーでもいい。
ただ、怖いのか動揺しているのかビクビクとしているアーサーの舌を、絡めとっていくうち、くちゃくちゃと漏れるいやらしい音が脳裏にこびりつき、また妾を興奮させた。
暫くして、唇をはなすと、よだれが細い糸を引いた。それを摂るため、舌で唇を舐めると、大袈裟な音が場に響く。
体が痙攣し、体温も上昇している。今にも倒れ込みそうになっている状態で、先端が押し倒しているアーサーの胸部についてしまっている胸を、これ以上押し付けまいと我慢する。
本当は今すぐこの胸をアーサーの口にぶち込んでしまいたいと角がおでこを割る勢いで叫んでいるのだが、何とか、何とか抑える。
これが耐えきれば、アーサーの手で胸を鷲掴みしてくれるだろうと信じていたからだ。
『どうでもいい』
頭が…重い。熱い。そんな中…必死に考える。
もしこれが、自分自身がやったことだとバレたら…?
恋人同士がするキスを強引にして。体を抑制せず押し倒し。痙攣してみっともない姿を見せている。
何とか語尾を変えようとしたが、テンパっていてじゃを言わないのが精一杯、文法がおかしくなった。でも…駄目だろうか。それすらも、どうでも良くなる。
おぼつかないアーサーの手が、恐る恐る妾の胸に触れる。自分で揉んでいるのとは訳が違う、ゴツゴツとした大きな手が違う性別の手なんだと主張していた。
アーサーの杖が押し倒している妾の太ももに触れる。
鬼は勘が鋭い。童貞に驚かれたように、この杖をあそこにいれたくて仕方がないのも多分その直感の1つだ。
不意に先程思いついた『予想』が頭をよぎる。
『もしかして男は、興奮状態に戦闘状態に陥るのではないか。
そしてその興奮状態は…あれ(子宮の疼き)に関係しているのではないか。』
だとしたら……だとしたら。アーサーがさっき、妾の胸を見て、興奮…妾が今感じているような感情になったのだとしたら………。
体がびくんびくんする。
頭が焼かれてる。
角の生えたおでこが張り裂けるように痛い。
あぁ……これ、思ったより……。
意…識……が…やば──────。
最後の最後、脳裏によぎったのは。風呂にも浸かっていないのに何故太ももに汗以外の液体が滴っているのか、それだけだった。
『あとがき』
最初▶2600文字。2000で終わらせるはずだったがどうしてもこんな話を2話分にしたくなかった。めっちゃ自信作。
その次▶知る人は知るプリ小説3月17日事件に巻き込まれこのチャプターのデータが消える。(絶望)内容を思い出せずゴミみてぇな文章で内容になった。2100文字。
その後▶データ復旧…したが最初の1800までしかデータが復旧しなかった。(キスのところまで)その後は自力で何とかかき2900文字に。2番目よりかはマシになった。
という数々の事件を乗り越え、『あいうえおなにー』は誕生しました。あざます。
つまりこのあとがきを描くのも3度目です!はいダルい!
それにしても。下ネタ描くのは好きですが実践がことごとく苦手ですね。経験人数が乏しいからですかねハッハッハッ。
毎回書く度「これえろくなってる??」「語彙力低すぎん??」「同じ言葉の使い回しが…。」と不安になるんですがまぁ頑張っていきます。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。