仕事が終わって、外はもう真っ暗。時計の針はもうてっぺん過ぎとるのに、俺のスマホは震えていた。
着信音はもちろんアノ曲。浦島坂田船メンバーの着メロは浦島坂田船の曲やけど、アノ人だけは別やねん。
デスク端に置いてあるスマホの画面には、アノ人のLINEのアイコンが表示されている。
もちろん、俺は通話のボタンを押した。
「はい、もしもし?」
決まった一文を口にする。しかし、その声は夜中だというのに、笑いを含んだものだった。
「こげな遅くに、どないしたんです?うらたさん」
『お前なんで笑ってんだよ』
「ええやないですか。だって…」
『ん?』
「好いとる人からの電話なんですよ?」
『……んにゃっ!?』
付き合ってからは、かれこれ一年が経とうとしている。俺はもう慣れたんやけど、うらたさんはそうでもないらしい。
まぁ、そない所が可愛くて好きなんやけどな。
「それで、おやすみのキスでもしに来てくれるんですか?」
『はぁ!?あ、違う違う。今回は明後日のこと伝えようと思ってかけたんだ』
「あぁ、ライブのリハですか」
『そうそう。…そんなあからさまに落ち込むなよ』
「あ、バレました?」
『当たり前だろ。だって──っぶね』
「ん?だって?」
その後数秒、愛しい声は途絶えた。そしてすぐ、なんでもないとはぐらかされた。
『それじゃあ、またな』
「え、ちょっと…切られてしもた」
画面一杯のうらたさんのアイコンは小さくなって、通話画面は消えてしまった。
「だって言うてはったけど…まぁええわ。はよ寝よ」
せめておやすみの一言は言って欲しかった、なんて考えながらも、俺は布団に入って目をつぶった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。