起きると、そこは見慣れた天井でも、寝慣れた布団でもなかった。
あ、そうや。ここホテルやった。
隣にはうらたさん。そして俺らはベッドの上。現状把握ができたところで、俺はラブホにいることを思い出した。
時間は夜中前。これからホテルが混み始めるころだった。
ベッドから降りようとすると、足に電気が走るような痛みを感じた。
体を起こしたうらたさんが、辛そうな表情で俺を見る。こんな辛そうな顔を、俺は初めて見たかもしれない。
うらたさんは、ステージの上みたいに輝いていてほしい。無邪気に笑っていてほしい…そんな思いが込上がってきて、俺は泣きそうなうらたさんを抱きしめた。
正直に言うと、なぜうらたさんがこんなに辛そうなのかは検討もつかない。そんな折れたわけではあるまいし、動かないわけでもない。
わからないまま、俺はうらたさんが泣かないように抱きしめ続けた。
そして数分後。うらたさんがやっと話せるようになった。
あれ?俺まだ寝とるん?
驚きのあまりバランスを崩し、俺はベッドから床に落ちてしまった。
落ちてもすぐ起き上がったせいで、今度はうらたさんがバランスを崩してベッドから落ちてしまった。
俺はうらたさんをキャッチして、再びベッドの上へ戻った。
本音は、どうせなら俺からうらたさんに言いたかった(なんとなく夫精神で)。でも、今はとにかく嬉しかった。
うらたさんも同じ気持ちやった。同じこと思ってた。ただただ、嬉しい気持ちが溢れてきた。
うらたさんの胸に飛びついた俺を、うらたさんが俺の頭を押して剥がそうとする。頑張って粘ったものの、やっぱり剥がされた。
大きな声が聞こえたかと思うと、なんと、うらたさんが俺の腕の中に潜り込んできた。
何を言い出すかと思えば…どこでそんな言葉覚えてきたんですか!!
うらたさんの行動が可愛すぎて、興奮のあまりきつく抱きしめてしまいそうになる。
でも、俺に抱きつくうらたさんの子供のような、どこか安心したような笑顔を見ると自然と心が和らいで、俺はうらたさんの頭を優しく撫でた。
返事は返ってこなかったものの、小さな頷きだけで、今は充分だった。
[完]
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!