「シャワー先行ってこい」
上着と荷物を置いたうらたさんは、ベッドにドスンと座り俺に言ってきた。
「おおきに、うらたさん」
「おう」
ドアを閉めて服を脱ぎカゴに入れていく。俺は遠足の前夜の小学生のようなノリで、体を洗い始めた。
あ、そうそう。今俺がいるのはあっち系のホテルや。最後に来たんは先々月だった気が…。
まぁそないなことは置いといて、俺は急いで体を洗った。
「うらたさーん、出ましたよー…って、寝てしもぅてるやん」
ドアを開けてびっくり。うらたさんはベッドの上で横になり、寝息をたてていた。これから運動会するのにこの余裕…。
「無防備すぎやろ、うらたさん…来ない場所でそんな余裕ぶちかまさんといてくださいよ」
俺は小さな体を抱き上げ、白くて細い首に軽くキスをした。
湯船に浸かるのは好きや。けど、流石に誰かと二人でお風呂なんて、小さい頃が最後やと思う。
「せやけど、恋人と入るなんて思わんかったわ…」
今俺は、寝ているけどもうらたさんと風呂に入っとる。服は脱がせたんやけど、流石に洗うんは起こしてまうかもしれへんから、さっきはとりあえず軽く体を流しただけやねん。
「んっ、んん…」
「!!」
「んー…」
「…なんや、起きたんかと思ったわ」
湯に浸かってからまだ五分くらいやろか。流石にもう気づきはる思うんやけど、うらたさんは起きる気配が全くない。もう起こした方がええような気すらしてきた。
「えっと…うらたさん?」
「んんー…」
あ、無理や。絶対起きひんわ。
心の中でそう悟ったあと、俺は小さくため息をついた。そんで小さな体を包み込むように、うらたさんを後ろから抱きしめた。
と、そのとき。
「セン、ラ…センラぁ…」
「っ!?」
突然の寝言──それも自分の名前を呼ばれ、俺は思わずうらたさんの顔を覗き込んだ。せやけどやっぱり、目はガッツリ閉じてはった。
「寝言にしては、可愛すぎやろっ…!」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。