第3話

一緒の朝食
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2018/04/08 15:26
「でも…デートって、どこか行きたいとこでもあるんですか?」
湯気のたった白米を乗せた茶碗と箸を手に、身なりを整えた俺は、正面に座るうらたさんに疑問をぶつけた。もちろん、この朝食はうらたさんが俺のために作ってくれはったもんやで。
「いや、別にないよ。ただセンラと一緒にいたかっただけ」
「うらたさん…」
「なんだよ」
「抱きしめても──」
「食事中」
「ハイッ」
さっきまで顔を真っ赤にしていたうらたさんも、今はいつも通りサバサバとしたクールな''うらたぬき''さんに戻ってはる。身を乗り出した俺を目の前に、クールなこの人は米を口に運んだ。
「ほら、早く食え。冷めるぞ」
「はいはい、わかりました」
俺は小さくため息をつき、仕方なく席に戻り、箸に手を添えた。
「どんだけ落ち込んでんだよ」
「そりゃ落ち込みますよ…せめてキスくらいしたいですわ」
「お前なぁ…」
お互い働いとる社外人。最近はライブやなんやで会うことができるものの、プライベートはその分溜まった仕事の片付けで一緒には過ごせへん。

二人っきりで出かけたいし、もっと一緒にいたい。ワガママを言えば、もうそろそろ同居したいくらいや。…でも、同居したい思うてるのは俺だけかもしれへん。それに、一応声優であるこの人のことを考えると、また言い出しにくい。
「センラ」
「はい?」
「飯不味かったか?顔色悪いけど…」
「えっ!?」
(いつの間に顔に出とったんねん、俺の阿呆!)
「不味かったなら無理して食わなくても──」
「いや!めっちゃ美味しいですよ!おかわりください!」
「お、おう?」
空になった茶碗を突き出すと、うらたさんは首を傾げるも、茶碗を受け取って席を立った。
(なにしとるんや自分っ!バカ!アホ!マヌケぇ!)
心の中で叫びながら、うらたさんにバレない程度に自分の頭を叩いたのだった。

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