第44話

老婦人の肖像
909
2023/03/07 10:30
絵描きは、老婦人の目をじっと見つめた。
見つめているうちに気づいた。
この老婦人は、自らの老いから目をそらさず、
今の姿を後世に残そうとしているのだ。
深澤辰哉
深澤辰哉
奥様、貴方はどうやら、とても尊いお考えの持ち主のようだ。
深澤辰哉
深澤辰哉
わかりました。私が持っている技術全てを駆使して、ありのままの貴方を書きましょう。ただ、1つだけお願いがあります。
阿部亮平
阿部亮平
どういうお願いでしょう?
深澤辰哉
深澤辰哉
これから毎日このアトリエに通ってください。私は、貴方をもっともっと深く知って、貴方という人間を絵の中に閉じ込めたいのです。
阿部亮平
阿部亮平
そういたします。
老婦人は言われた通り、それから毎日、
アトリエに通った。
絵描きは時間をかけ、シワの1本1本、シミの1つにいたるまで、丁寧に書き上げていった。
絵描きが絵を描く間、老婦人は問わず語りに、
様々なことを語った。
3年前、愛する夫を病気で亡くしたこと。
その後しばらく涙にくれたこと。
何事も包み隠さず、老婦人は正直に明かした。
あるときにはこんなことさえ絵描きに告白した。
阿部亮平
阿部亮平
恥ずかしいことで申し上げにくいのですが、今、私は、世間様に隠れて、若い男性と暮らしておりますの。
阿部亮平
阿部亮平
その男性を喜ばせるために、亡くなった主人の遺品である宝石を全て売り払って、お金に換えてしまいました。
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