第4話

81
2021/04/29 06:40





新宿の庶民的な店で、お酒を呑みながら食事をした。
彼は、僕より少し大きいぐらいで、見下ろしてくることもなく、終始優しい笑顔だった。
あんまり食べると引かれると思って、少しにしておく。



会話はまた、いつもの褒め合い。


僕のどこが良かったの?
僕のどんなとこが好き?


ただ、電話と違って、彼のねっとりとした視線が、僕の心をざわつかせる。

友達のキラキラのでかい手を見慣れてたから、彼の手はやけに小さく見えた。


「今日、このあとは?」


「はい、まだ平気です」


「行きたいとこある?」


うちに誘うか迷って、でもいきなり過ぎる気もして、黙ってると、


「ホテル行く?」


って聞いてきたから、黙ってうなずく。






彼に連れて行かれたのは、歌舞伎町を過ぎて新大久保へ向かう辺りの、古いラブホだった。

ハイアットリージェンシーを期待してたわけじゃないけど、それにしてもチープな感じにびっくりする。

まあ、食事だって居酒屋だったし、僕達の身の丈に合ってるっていえばそうかもしれない。

友達のキラキラが、おしゃれなカフェ大好きで、しょっちゅう連れてってくれるから、普通の感覚が少しバグってるのかもしれない、と思う。


中は、外ほど古い感じはなく、清潔だったからホッとする。


「古くてビックリした?
ここね、男同士でも何も言われないんだ。
先にシャワー使う?」


彼の後の濡れた床とか、嫌な気がしたから、言葉に甘える。


でも、でもさ。
もういきなり?
キスもなし?
男同士ってこんななの?


手早く済ませて彼を待つ。
のどがかわいた気がして冷蔵庫を開けると、それは冷蔵庫じゃなくて、見たことないオトナのオモチャってやつがいっぱい入ってた。

内心ギャーってなる。

あわてて閉じて別の扉を開けると、そっちは冷蔵庫だったけど、山ほど強壮剤が入ってた。

男達の必死な思いを垣間見た気がして、うわぁ、って思いながらコーラを取り出して飲んだ。



出てきた彼はバスタオルを腰に巻いて、隣に来た。

いよいよキス?って思ったけど、


「しゃぶってくれる?」


って言うからびっくりする。

この辺で、なんか違うぞ、って頭の中で警告が鳴り始めた。


「どしたの?
僕のこと好きなんでしょ?
ずっと憧れてくれてたんだよね?」


「あの、したことないから」


今度は彼が驚いた。


「うそでしょ?
グループ内でやらないの?
ケミの彼とも?」


「やらないです」


首を横に振ると、彼はニヤリと笑って、


「へぇ。
そんなに僕のこと好きだったんだね。
嬉しいなぁ。
きれいなきみが、ケミの彼より僕がいいなんて」


いや、違うよ。
ただ単に、彼の相手はキラキラだから。

思ってる間に、前をはだけて、僕の手を取り、


「好きなだけ触っていいよ」


って触らせようとしてきた。

いやあ、なんなの、この人。


「僕、帰ります!」


握られた手を振り解き、すごい速さで服を着て、一万円を取り出してベッドに置いた。


「僕、勘違いしてました、すみません。
これ、今日の食事代。
あと、これからはもうLINEも電話も出ませんので」


言うだけ言って部屋を出た。

電車の方に走り出す。

かなり走ってもう無理、って辺りで止まり、はあはあいってたら、急に笑いが込み上げてきた。


ばかすぎた。






プリ小説オーディオドラマ