「ちょっとここで待っててね」
保健室で先生にそう告げられ、隣のベットに座る楓ちゃんと…二人。
やっぱり体調不良なのか…。
…っていうか…なんで千咲は俺に任せたりしたんだろ…
千咲のことだから、助けたら最後まで傍にいたいとか思いそうだけど…。
悶々とそんなことを考えながら…チラッと楓ちゃんを見る。
緊張してる…?辛いだけか…?
中学の体育祭の時か…?
確か楓ちゃんが怪我して…俺が助けた時…
ん?
まさか…
この表情…
中学の時。
その当時可愛いなと思って付き合っていた彼女、雪は…楓ちゃんの親友で…
デートや下校の約束をすれば、楓ちゃんから冷たい目線が向けられていた。
必死に言葉を絞り出して、思いを伝えようとしてくれる楓ちゃん。
予想していた言葉よりも、ずっとストレートだった。
顔を真っ赤にして息を整えている…
今までも…俺に告白してくれた子達はみんな…こんな顔だった…。
そしていつも俺は…「嬉しいよ。でもごめんね…。」なんて言葉並べて…。
それは心のどこかでめんどくさいと思っていた部分もあったからで…
でも…今はそれでいいのか…?
千咲に恋人のフリまでさせて…しかも中学からずっと俺の事思い続けてくれてる子にそんなこと…。
…っていうか今の俺は本当に…彼女なんてめんどくさいとか思ってるのか…?
楓ちゃんには…全部話した方がいい。俺の想い。
俺は不意にそう思った。
前まではただのクラスメイトで…接点もその程度で…
でも身近な存在になって…どんどん見えてくるものもあって…。
俺はいつしか…
惹かれていってたんだ…。
『直樹くん!』
『私、付き合います…!』
『いいよ。彼女のフリ。私やる。』
『…い、いってきますっ』
『…な、な、直樹…(ボソッ)』
…それは…楓ちゃんじゃない…。
千咲の声が…頭の中を回っている。
『もしかして直兄のこと、好きなの?』
前に北斗が家でそんなことを言っていたのを聞いたことがあったっけ…。
今思えば、あの時から俺も少しは意識するようになっていったのかもしれない…。
そう言いながら…目には薄ら涙を浮かべている。
俺はそれだけ返すと
ガラガラ
今の俺が楓ちゃんの傍には居られない。
そう思って飛び出すように出てきた。
ドアの向こう側から…微かに楓ちゃんの泣き声が聞こえてくる…。
楓ちゃんのおかげで…今の自分の気持ちを知れたんだ。
俺が…千咲を好きだって気持ちに_。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。