別荘から凛と2人で出てきた俺は、
凛のその言葉につられて上を見上げた。
これを見た千咲は…なんて言うんだろう。
…あぁ。また千咲のこと。
今日の昼間、別荘に来る前に
少し拒否られたことがまた頭の中をよぎる。
あれから一日、ほとんど2人で会話をしていない。
千咲と話しているのは…直兄。
……
そう。今も…俺たちが後にした…別荘の中で2人きり…。
俺は無意識に後ろの別荘を振り返って見ていた。
俺は足を早めた。
_____
別荘から続く階段を降りながら、2人でそんな話を続ける。
こんなふうに…千咲ともっと話がしてぇな…。
あいつ…ずっと今日のこと楽しみにしてて…
俺もすげぇ楽しみで…。
……
…ん?
今なんつった…?
俺は自分の耳を疑って凛を見た。
あ、やべぇ…
俺今…ずっと千咲のことばっか考えて…
こいつとの会話まともにしてなかった…
今俺と喋ってんのは凜なのに。
最低だな。人として。
後が悪そうに凛が話を続けていると
ズルッ
ガシッ!
足を踏み外して転げ落ちそうになった凛の腕を
俺は反射的に掴んで引き寄せた。
お互い、距離の近さに顔を赤らめる。
「関節キスとか…出来るのかな。」
数分前の一言が頭をよぎる…
我に返って咄嗟に掴んだ腕を離そうとすると
ギュッ
凛は何も言わずに俺の服の袖を握った。
グイッ
チュ…
真っ直ぐな言葉と共に伝わったのは…
唇の感触。
状況が…理解出来なかった。
俺は何もかも知らなかったんだ
こいつの…俺に対する想いも…。
…そして…
この状況を…近くで千咲が目撃していたという事実も。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!