第29話

いいのかよ
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2022/06/09 08:09
日向 北斗
日向 北斗
はぁ!?恋人のフリ…!?
カフェの中でコーヒーを飲もうとした北斗が、目の前にいる私と直樹を見ながら、叫んだ。
日向 直樹
日向 直樹
実は最近、こんな紙が靴箱によく入っててさ、
直樹は私に見せてくれた紙を、北斗の前に差し出す。
日向 北斗
日向 北斗
…っ!?
手紙の内容を見た北斗は、目を見開いてもう一度直樹を見た。
日向 北斗
日向 北斗
…これ、
日向 直樹
日向 直樹
…ストーカーか、ただのファンか、ヤバい奴なのか、男か女かも俺には分かんねぇ。
泉谷 千咲
泉谷 千咲
……。
私はただその隣で話を聞くだけ…。
日向 北斗
日向 北斗
…それで…この紙を置いてった奴を追い払うために、千咲と?
日向 直樹
日向 直樹
そういう事だ。
日向 北斗
日向 北斗
お前はいいのかよ。
北斗は私の方を見る。
泉谷 千咲
泉谷 千咲
…っえ!…あ、うん。いいよ。
急に話を振られて、少し焦る…。
しかも、昨日で私の気持ちが北斗に完全にバレてしまった今、北斗はなにか言ってくるのだろうかと思うだけで…背筋が凍る…。
日向 直樹
日向 直樹
だから、この事は他のやつには黙っててくれ。
日向 直樹
日向 直樹
もちろん、家の中では今まで通りと変わらないし、ほとぼりが冷めたらすぐいい感じに別れた事にするから。
日向 北斗
日向 北斗
…いい感じにってなんだよっ…
北斗は、ずっと何故か不服そうな顔を続ける…。
日向 北斗
日向 北斗
…まぁ…それで千咲も了承してんなら…文句はねぇけど…。
日向 北斗
日向 北斗
直兄も気をつけろよ。こんな紙切れホイホイ受け取りやがって…
日向 直樹
日向 直樹
仕方ねぇだろ?靴箱に入ってんだから…。
日向 北斗
日向 北斗
…ったく…告白するわけでもねぇのにこんな言葉並べやがって…そいつも薄気味悪りぃな。
…告白…
咄嗟にさっきの北斗に告白した女の子の顔が頭に浮かんだ…。
プルルル…プルルル…
日向 直樹
日向 直樹
…っ!悪い、同じ学級委員のやつからだ
直樹が席を立って、携帯を片手に歩き出す。
日向 北斗
日向 北斗
……スー…ゴクッ
北斗はなんの気もないような顔でコーヒーをすする。
泉谷 千咲
泉谷 千咲
…っ…ねぇ。
日向 北斗
日向 北斗
ん?
泉谷 千咲
泉谷 千咲
…さっきの告白…なんであんな言い方したの?
日向 北斗
日向 北斗
…え?
泉谷 千咲
泉谷 千咲
あの女の子…内心すごく傷ついてるような顔してた。
泉谷 千咲
泉谷 千咲
もっと、優しい断り方あったんじゃないの?
日向 北斗
日向 北斗
…なんで、今俺の話っ…
泉谷 千咲
泉谷 千咲
勇気出して告白したのに…ありがとうも無しに、あんなあっさり言われたら嫌じゃん…。
日向 北斗
日向 北斗
いいんだよ…あんな風に告ってくるやつ今までもいたし、みんな、そうだよね。ってしばらくしたら何事も無かったように話しかけてくんだから。
泉谷 千咲
泉谷 千咲
…だからって…!…っていうか今までもそんな言い方して断ってたんじゃっ…!
日向 北斗
日向 北斗
…つーか、なんで「聞いてほしい話がある」ってお前らに言われたから来たのに、俺が説教されなきゃいけねぇんだよ。
泉谷 千咲
泉谷 千咲
告白する方の気持ち考えたことあるの…!?
日向 北斗
日向 北斗
じゃあお前は誰かに告ったことあるのかよ!
泉谷 千咲
泉谷 千咲
私だって今まで何度も直樹に告白しようとしてっ…
…あ…
日向 北斗
日向 北斗
……。
勢い余って私…余計なことを…。
泉谷 千咲
泉谷 千咲
…っ。
でも、無性に腹が立った。
告白って…そんなあっさりしていいものじゃない。
そんなあっさり受け流していいものじゃない。
今まで私は…何度も何度も…この気持ちを伝えたいと思って…
でもいつだって直樹は遠くて…みんなの王子様で…
私には…手の届かない存在で…。
そういう苦しい思いに打ち勝ってまで、告白してくれたような相手に…
あんなに…あんなに…っ。
日向 北斗
日向 北斗
…恋人のフリでいいのかよ。
泉谷 千咲
泉谷 千咲
…っ…!
日向 北斗
日向 北斗
好きなら、伝えて本気で付き合えばいいじゃねぇかよ。
泉谷 千咲
泉谷 千咲
……っ。
日向 北斗
日向 北斗
恋人のフリ頼まれるくらいの仲になっといて、まだ振られるの怖がってんのかよ。
泉谷 千咲
泉谷 千咲
…や…めて…
痛い。
胸が痛い。
泉谷 千咲
泉谷 千咲
私の気持ちなんか分かるわけないでしょ…!!
ガタンッ
私はお店を飛び出した。
…全部、図星だった…。
痛い所をガンガン突かれた。
直樹との距離が近づけば近づくほど、
実は自分でも気づかないうちに、今までよりももっと好きになっていて…
でもそれと同じくらい…
もし告白して振られたらって恐怖も…募っていってた気がする…。
付き合わなくても、恋愛感情として好かれていなくても…
このままの距離でいられたら…それでいいとすら思えた時もあった。
見慣れた景色を駆け抜けながら、目の水滴が溢れそうなのをこらえて、家ではない、どこかへと走り出した_。

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