第9話

1日
35
2019/08/31 12:46
そんなはずはない、と僕はまた何度目かの息継ぎをした。
うみ
どうしたの?
今日はなんか調子悪そうだけど・・・・・・
榎山みずき
う、ううん。別に、だいじょうぶ・・・・・・
?を浮かべて僕を見ている彼女は、やっぱり・・・・・・何か違う気がする。


なんか、兄ちゃんとか学校で会う人とかに比べて・・・・・・、なんて言えばいいのか分からないけど、とにかく見え方が違う。
ちょっと前までそんなことなかったのに・・・・・・。






理由は多分・・・・・・、僕が彼女を──。



いやいやいや、そんなわけ・・・・・・!



いや、でもお・・・・・・。





という、バカらしい脳内会議を僕はさっきからずっと繰り広げている。

おかげで、いつもみたいに泳げない。
うみ
・・・・・・ねえ、休まないの?
榎山みずき
う、うん・・・・・・
だって・・・・・・、休むなら、プールサイド──少女の横に座ることになる。
かと言って、どれだけ離れたところに座っても、彼女は近くに来るし・・・・・・。


でも確かに少し休みたい。
・・・・・・どうしよう。


と考えたところで、僕はあることを思いつく。


そして実行したのは──
うみ
・・・・・・ねえ。
なんで浮いてるの?泳がないの?
そう、いわゆる背浮き、だ。


僕は今、仰向けで水に浮かんでいる。
これは、体の力を抜いて浮かぶからそれほど疲れないし、彼女の隣に座らなくていいだろう、と思ったんだ。



彼女の隣に座ったら・・・・・・多分僕は、顔から火が吹き出るかもしれない・・・・・・。
榎山みずき
これで休憩するよ・・・・・・
うみ
それで・・・・・・?
榎山みずき
うん
彼女は納得いかない、という顔をしてるけど、まあ・・・・・・いい、よね・・・・・・?


その体制のまま、彼女に告げる。
榎山みずき
僕さ、もうすぐここ来れなくなるんだ
うみ
・・・・・・え?
榎山みずき
もうすぐ夏休み終わるから。あ、えっと
僕じゃなくて兄ちゃんの、ね
うみ
・・・・・・
榎山みずき
夏休み中だけっていう約束だったから、
それで──・・・・・・
うみ
そっか・・・・・・
榎山みずき
・・・・・・うん
いつになく悲しそうな少女の声が、耳にまとわりつくようだった。



──その日の夜は、それで眠れなくなってしまう。



榎山みずき
ごめんね
うみ
ううん
榎山みずき
・・・・・・
うみ
今日はもう帰らなきゃ
榎山みずき
もうそんな時間・・・・・・?
うみ
あ、ううん、君じゃなくて、・・・・・・私
榎山みずき
・・・・・・そ、そっか
うみ
うん、またね
榎山みずき
またね
相変わらず見送ることしかできない僕は、その言葉に思いをたくした。





──・・・・・・それがどんなものかなんて、知らずに。

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