──・・・・・・誰かに名前を呼ばれた気がして、目を覚まそうとした。
でも、頭が痛くてそれもままならない。
ただ、周りの声と雨のような音が聞こえてくるだけ。
動けないので、その音にじっと耳をすませていた。
と、何かがせり上がってくる感覚・・・・・・──。
水、だった。
水を吐き出すと同時に、体の感覚が戻ってきた。
ゆっくりと上体を起こす。
兄ちゃんが、大丈夫か?と背中をさすってくれる。
自分の荒い呼吸が整うまで、そのままで居てくれた。
落ち着くと、その後は兄ちゃんにも、他の大人にも同じ質問をされた。
「何があったんだ?」
その質問には、よく覚えていない、とだけ答えた。
少女のことを出さなかったのは、
少女のせいにするのもな・・・・・・、
と思ったのと
その場に少女が居なかったからだ。
確かに居たはず、という疑問は残ってるけど、その後彼女に会うこともなくて、聞けなかった。
──ただ、その日の夜、僕は兄ちゃんに聞いた。
珍しく怒っているような兄ちゃんに、僕は少女のことを詳しく聞けなかった。
でも後日、兄ちゃんは教えてくれた。
その少女のことを。
詳しくは教えてくれなかったけど、ある日突然、
あの子と関わってはいけない。
そんなウワサが流れた。
ウワサを流した理由は、ただなんとなく。
信じるはずがないと思っていた、らしい。
そしてそのウワサの影響で、彼女へのいじめがはじまった。
もちろん、ウワサは根も葉もないウソだし、いじめられる理由なんて彼女には分からなかった。
だから、先生にもすぐに相談した。
・・・・・・でも、なにもしてもらえなかった。
いじめはどんどんエスカレートして、・・・・・・。
彼女は、ある夏の日に、プールで亡くなっていた。
原因はもちろん、クラスメイト。
クラスメイトが、彼女を沈めたって聞いた。
今、「俺も」って・・・・・・。
兄ちゃんはそそくさとその場を離れていった。
──それが、僕が兄ちゃんから聞いた
「少女」についての質問の、答え。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。