第11話

0日②
37
2019/09/01 13:26



──・・・・・・誰かに名前を呼ばれた気がして、目を覚まそうとした。




でも、頭が痛くてそれもままならない。


ただ、周りの声と雨のような音が聞こえてくるだけ。
動けないので、その音にじっと耳をすませていた。





と、何かがせり上がってくる感覚・・・・・・──。



水、だった。
榎山みずき
っ・・・・・・かはっ、っごほっごほっ・・・・・・
水を吐き出すと同時に、体の感覚が戻ってきた。
ゆっくりと上体を起こす。
兄ちゃん
みずきっ
兄ちゃんが、大丈夫か?と背中をさすってくれる。
自分の荒い呼吸が整うまで、そのままで居てくれた。


落ち着くと、その後は兄ちゃんにも、他の大人にも同じ質問をされた。




「何があったんだ?」





榎山みずき
ええと・・・・・・


その質問には、よく覚えていない、とだけ答えた。

少女のことを出さなかったのは、



少女のせいにするのもな・・・・・・、


と思ったのと


その場に少女が居なかったからだ。



確かに居たはず、という疑問は残ってるけど、その後彼女に会うこともなくて、聞けなかった。






















──ただ、その日の夜、僕は兄ちゃんに聞いた。



榎山みずき
兄ちゃん、うみっていう名前の子、知ってる?
兄ちゃん
・・・・・・うみ?
榎山みずき
うん。長い黒髪で、せーらー服って
いうのを着て
兄ちゃん
みずき
榎山みずき
・・・・・・なに、兄ちゃん
兄ちゃん
そのこと、誰にも言うな
榎山みずき
兄ちゃん
いいから
榎山みずき
・・・・・・わかった・・・・・・
珍しく怒っているような兄ちゃんに、僕は少女のことを詳しく聞けなかった。



でも後日、兄ちゃんは教えてくれた。


その少女のことを。






兄ちゃん
うみ──本名は、白川うみ。
俺の先輩から聞いた話だけど、その子は
昔、いじめられてたらしいんだ──



詳しくは教えてくれなかったけど、ある日突然、


あの子と関わってはいけない。


そんなウワサが流れた。

ウワサを流した理由は、ただなんとなく。
信じるはずがないと思っていた、らしい。



そしてそのウワサの影響えいきょうで、彼女へのいじめがはじまった。

もちろん、ウワサは根も葉もないウソだし、いじめられる理由なんて彼女には分からなかった。
だから、先生にもすぐに相談した。




・・・・・・でも、なにもしてもらえなかった。


いじめはどんどんエスカレートして、・・・・・・。








彼女は、ある夏の日に、プールで亡くなっていた。



原因はもちろん、クラスメイト。
クラスメイトが、彼女を沈めたって聞いた。



兄ちゃん
それで、ひとりぼっちの彼女は。
今も、自分のトモダチを探してるらしい。
夏に、あのプールに、一人で来た人を
狙ってる・・・・・・とかなんとか
榎山みずき
・・・・・・
兄ちゃん
それだけ、だ
榎山みずき
・・・・・・・・・・・・
兄ちゃん
ふっ、怖いのか?
榎山みずき
べ、別にっ!そんなの、作り話でしょ?
兄ちゃん
どうだろうな〜?
榎山みずき
・・・・・・
兄ちゃん
ふはっ・・・・・・まあ、俺も、
あれ以来何もないし、な・・・・・・
榎山みずき
・・・・・・え
兄ちゃん
ん?どうした?
榎山みずき
あ、いや・・・・・・
今、「俺も」って・・・・・・。
兄ちゃん
じゃあ、俺勉強しなきゃ
榎山みずき
うん・・・・・・、ありがとう
兄ちゃん
んー
兄ちゃんはそそくさとその場を離れていった。






──それが、僕が兄ちゃんから聞いた

「少女」についての質問の、答え。

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