その日の夜。
なぜかまた、思い出せもしない少女のことを考えていた。
やっぱ分かんないなあ・・・・・・。
今日、何したんだっけ?
何の話をしたんだっけ?
「誰」と・・・・・・居たんだっけ?
何度考えても、その答えは出るはずもない。
それに、明日プールに行けば、きっと思い出すのだろうから今思い出す必要もないと言えばないんだろうけど・・・・・・。
でも・・・・・・・・・・・・。
自分の中で思考がまとまらなくて、困る。
あと、なんでこんなにも思い出したいのかっていうのも、分からなくて・・・・・・。
気づくと、兄ちゃんがすぐ横に立っていた。
兄ちゃんは苦笑しながら言う。
それは、一本の棒付きアイスだった。
僕が昔から好きなメーカーの。
それだけ言うと、兄ちゃんは部屋を出ていった。
一人になった僕はさっそくアイスを食べることにする。
・・・・・・。
もう、今日はいいかな。「誰か」のことは。
何度考えても何も思い出せないし。
きっと明日も会うんだろうし・・・・・・。
なんて、結局今日も同じ結果に行きついたところで、
アイスを食べ終えてしまった。
何度目かのため息をつくと、不意に眠くなってきた。
疲れてるんだ、きっと・・・・・・。
そんなことを思いながら、ベッドに寝転んだ──。
──ということが、最近よくある。
ベッドに入ったあとは覚えてないから、きっと寝てしまっているんだけど。
・・・・・・復唱するけど、なぜか、思い出せもしない少女のことを考えているんだ。
プールに来ると、一気に記憶がよみがえってくる。
だから別に思い出す必要はないんだけど。
家では、そのことを分かってないからなあ・・・・・・。
今思い出さないと、って思ってるんだろうなあ・・・・・・。
そんなことを考えていたから、真横のしゃがむ誰かに気づかなかった。
・・・・・・もしかして、これがこ──、
少女──うみ・・・・・・さん?はまっすぐに僕の顔を見つめてる。
気まずくって、すぐにその場に立ち上がった。
そして、プールに入る。
今日は、いつもより冷たく感じた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!