第5話

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2018/05/19 11:42
うつむいたままでいると、



突然誰かに顎を…



掴まれた!?



ん……?


これは俗に言う…




"顎クイ"ってやつですか?


うそ、初めて見た!!


そんな漫画みたいなシチュエーションを

恥ずかしげもなくする人なんて。
なーんて、感心していた私だったが…
神楽木 晴(かぐらぎ はると)
死にたいのか、お前…
上から聞こえてきた低い声に


鳥肌が立つ。


耳を…疑う。



恐る恐る顔を上げて目を開けると…





目を疑う。



夢なんじゃないかって思う。







だって、

《嘘、嘘、嘘!?》



だんたんと、

当たり前のように車から降りてくる5人。
真矢 愛莉(まや あいり)
あれ?うちの制服じゃん
江戸川 音 (えどがわ おと)
C…5…
運転手
きみ、けがは!?
運転手さんの声に答える余裕もなく…


ガクッ!と膝の力が抜け、

その場で倒れる。
神楽木 晴(かぐらぎ はると)
おい、聞いてんのか?
江戸川 音 (えどがわ おと)
いえッ!!
神楽木 晴(かぐらぎ はると)
??
あまりの驚きに変な声が出てしまった。

そんな私を怪訝そうに見下ろす神楽木に

焦りを覚える。
江戸川 音 (えどがわ おと)
い、今の"いえ"は
"ケガは?"への返事でして…
成宮 一茶 (なるみや いっさ)
ねぇ、君。名前は?
いきなり頭上から聞こえてくる優しい声に戸惑う。
江戸川 音 (えどがわ おと)
え、…えっと…
どうしよう、


今、C5に私を知られてしまったら…


下手したら家のことがバレて…っ!?
カシャッ!という機械音に振り返れば、

そこにはタブレットを掲げた平 海斗。
平 海斗(たいら かいと)
2年D組。江戸川 音。
化粧品メーカー、
"エドクオリティ"の一人娘か…
タブレットを覗き込みながら
呟く彼に目を疑った。


まさか、そのタブレットに

全校生徒の情報がっ!?
《個人情報保護法ってご存知ですか?》
平 海斗 (たいら かいと)
ん…?エドクオリティ…?
何か考え込む平 海斗。


もしや、…



まずい!このままだとバレちゃう!!
江戸川 音 (えどがわ おと)
と、とんだご迷惑を!
では、これで失礼させて…
ペコペコ頭を下げて、

さっさと帰ろうと踵を返した。
成宮 一茶 (なるみや いっさ)
えっ…歩き?
成宮さんの驚きの声がする。
江戸川 音 (えどがわ おと)
う、運転手が風邪をひいておりまして
ではっ!
猛ダッシュで帰っていった私には…
栄美 杉丸(えいび すぎまる)
見事な脚力
神楽木 晴(かぐらぎ はると)
なんだ、?アイツ
不思議そうに、


不審そうに



そう呟いていた彼らを





知るわけがなかったのです…。
走って走ってとにかく走って、



ようやく、


【北名荘】というオンボロアパートに到着。



こここそが、私の本当の家だ。
江戸川 音 (えどがわ おと)
ハァ、ハァ、ハァ…


じゅ、寿命が縮んだ…
そう呟いて、

乱れた息を整えて。


何事もなかったかのような顔で


私は家の中へと入っていった。
ーーーーーー
お母さん
酷いわ。
あんな大声で怒鳴らなくたって。
もう心臓が止まるかと思ったんだから
そう言って胸を押さえるお母さんに

たまらず、ため息が漏れた。
江戸川 音 (えどがわ おと)
パートの面接、
落ちるのこれで何回目?
お母さん
だって、私は悪くないのよ?
質問しただけなの。
この0が一つ少なくなきですかって
"これ"と見せられる求人広告を覗き見てみると…
そこには


"時給920円"。
お母さん…


時給が9200円もあるんなら、

私もそこで働いていますって。
お母さん
グスッ
私の冷めた視線に気づいたのか、

お母さんは泣き出してしまった。


そうだ。

お母さんはお母さんなりに頑張っているんだ。
江戸川 音 (えどがわ おと)
わかった。いいよ、無理しなくて、
私、頑張るから
お母さん
ごめんなさいね。
これも、音ちゃんが18歳になるまでの辛抱だから
《エドクオリティが倒産してから半年とちょっと。

根っからのお嬢様育ちのお母さんは。

屋敷と財産のほとんどを取り上げられた

ショックと。

お父さんが漁船に乗って出稼ぎに

出てしまった寂しさから

すっかり塞ぎ込んでしまっている》
昔の写真ばかり見ては…
お母さん
誠さんは今頃、
インド洋あたりかしら?
なんて、お父さんの名前を口にするお母さんが


何だかとても、小さく見える。


ーーーーーー
机の上に並べた、今夜の食事。


豆苗スープに、パンの耳のグラタン風。


たったこれっぽっちだけど。


こんな生活にも、慣れてしまった。
江戸川 音 (えどがわ おと)
ごちそうさまでした。

行ってきます
さっさと仕事に行く準備をしている私に

お母さんは驚いた顔で
お母さん
あら?音ちゃんお出かけ?

お母さんの天然っぷりには呆れ果てた。



これはほんっとうに…


ため息ものだ。

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