シュルッ。
ゆっくりと、木製の箱のリボンをほどく。
そして、中に入っていた新品の制服を手に取る。
《手の中にあるうちは、気づかない。
広いお屋敷も。
シェフが作った美味しいお茶菓子も。
ばあやが飾る綺麗なお花も。
大切な人も》
私の制服姿を上から下へと眺めては
ニッコリと笑ってくれる婚約者の天馬くん。
素敵素敵!といいながら
携帯のシャッターを何度も切るお母さん。
天馬くんのお母さんと私のお母さんは
高校時代からの親友で。
お互い子供が生まれて異性だったら、
婚約させよう。
という約束をしていたらしい。
家族がいて、
たくさんの人たちに囲まれて、
笑顔で暮らしていた。
この日まで、
私は幸せだった。
《なくなって、初めて気づくんだ。
何一つ、当たり前じゃないって》
まさか、あんなことになるなんて…
思いもしなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。