ダッダッダッダッ!
静かな早朝。
暖かな日差し。
毎日欠かさずしている早朝マラソンが
終わり、
ポカリを手に屋敷を歩いていると
滅多に開かれることのないパーティー室の扉が
開いていることに気付き、
目のやり場を失い
呆然とその場で立ち尽くしていると
俺の隣を平然と通りすぎていく母親。
そして…
パーティー室の中にある大きな
テーブルの向こう側の椅子に
真顔で座ってる父親。
ゆっくりと、
父親に示された自分の席へと腰かける。
置かれた朝食に
母親も父親も手をつけるが
二人の間にはもちろん、
俺との間にも話が交うことなどない。
この神楽木家一番のベテラン執事である小林は
いつもどんな時でも唯一
俺の味方だった。
そう言う俺に
当たり前のように
そう答える母親に
慣れてる自分がいる。
小林が俺の方をチラチラと見てから
親父の方へと振り替えって
ニコニコしながら俺の話をした。
けど。
ほらな。
こうなるって最初からわかってるんだ。
はぁー。と俺の方を見ては
大きなため息をつく親父に
恐怖か何なのか
体が震えてたまらない。
思わず、膝の上で握りしめた拳に
グッと力を込める。
何度も聞いているはずなのに
"完璧でない人間はいらない"
その言葉だけはどうしても
何度聞いたって
胸がギュッと締め付けられるような感覚に陥る。
親父は完璧だから、
完璧以外求めていない。
だから、
この家にうまれた限り、俺は…
俺を置いて
さっさと仕事へと戻っていく
母親と父親の後ろ姿を見ながら
昔のことが頭に鮮明に甦ってきた。
《初めてのバイオリン全国大会出場当日。
パチパチパチ。となる盛大な拍手と共に
緊張がマックスまできてしまった俺は…
ステージ上で嘔吐してしまった。
そんな俺をいたわる事もなく親父は…
『お前にはがっかりした』
『完璧な息子しかいらない』
とだけ言って俺を見放した》
俺は…
この神楽木家に生まれてきた以上。
あの人が考える
"完璧"にならなければならない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。