第9話

story*神楽木 晴 side*
899
2018/06/19 23:13
ダッダッダッダッ!


静かな早朝。



暖かな日差し。



毎日欠かさずしている早朝マラソンが



終わり、



ポカリを手に屋敷を歩いていると



滅多に開かれることのないパーティー室の扉が


開いていることに気付き、


目のやり場を失い


呆然とその場で立ち尽くしていると


晴の母
…あら
俺の隣を平然と通りすぎていく母親。



そして…
晴の父
パーティー室の中にある大きな



テーブルの向こう側の椅子に



真顔で座ってる父親。
神楽木 晴(かぐらぎ はると)
…はい
ゆっくりと、



父親に示された自分の席へと腰かける。
置かれた朝食に



母親も父親も手をつけるが



二人の間にはもちろん、



俺との間にも話が交うことなどない。
小林
皆様お揃いになるのは久しぶりですね
この神楽木家一番のベテラン執事である小林は


いつもどんな時でも唯一


俺の味方だった。
小林
ここのところ。
お二方とも出張続きでいらしたので
晴の父
今日からまたしばらく留守にする
晴の母
私も午後にはシアトルに発つから
何かあったら…
神楽木 晴(かぐらぎ はると)
"小林に言え"…ですよね
そう言う俺に



当たり前のように
晴の母
ええ
そう答える母親に


慣れてる自分がいる。
小林
お聞きになりましたか?
先週、坊っちゃんがまた
乗馬の大会で優勝を
小林が俺の方をチラチラと見てから


親父の方へと振り替えって


ニコニコしながら俺の話をした。
けど。
晴の父
全国でか?
小林
いえ。関東大会で
ほらな。



こうなるって最初からわかってるんだ。
はぁー。と俺の方を見ては



大きなため息をつく親父に



恐怖か何なのか



体が震えてたまらない。
思わず、膝の上で握りしめた拳に


グッと力を込める。
晴の父
神楽木 晴(かぐらぎ はると)
…はい
晴の父
なぜ私がお前を野放しにし、
好き勝手させているか分かるか?
神楽木 晴(かぐらぎ はると)
…俺の発言、行動。
全てがこの家にふさわしい人間かを
見定めるテストだからです
晴の父
そうだ。
神楽木の名を
背負っていることを忘れるな。
完璧でない人間は…いらない
何度も聞いているはずなのに


"完璧でない人間はいらない"


その言葉だけはどうしても



何度聞いたって



胸がギュッと締め付けられるような感覚に陥る。

親父は完璧だから、


完璧以外求めていない。



だから、



この家にうまれた限り、俺は…



晴の父
ルクルトを用意してくれ
小林
かしこまりました
晴の母
車、表に回しとして
小林
はい
俺を置いて



さっさと仕事へと戻っていく



母親と父親の後ろ姿を見ながら



昔のことが頭に鮮明に甦ってきた。
《初めてのバイオリン全国大会出場当日。


パチパチパチ。となる盛大な拍手と共に


緊張がマックスまできてしまった俺は…


ステージ上で嘔吐してしまった。



そんな俺をいたわる事もなく親父は…



『お前にはがっかりした』


『完璧な息子しかいらない』


とだけ言って俺を見放した》
俺は…



この神楽木家に生まれてきた以上。



あの人が考える




"完璧"にならなければならない。

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