《絶対 誰にも知られてはいけない
私が庶民狩りにおびえる
隠れ庶民だなんて》
『ちょっと今、
運転手が風邪を引いてて』
なんて、あからさまな嘘をついて
麻美たちのお迎え高級車に乗せてもらっている今。
だって、しょうがないでしょう。
『音さん、いつも歩きですわよね?』
なんて聞かれたら、
『運転手が風邪で休んでいて』
しか思い浮かばなかったんだからっ。
運転手のいない生徒なんて
この学園ではいないのだから。
いや、いてはいけない。
ドンドンと話されていく
流されていく会話に欠伸が出そうなのを
必死におさえる。
ほんっとに凄い人気だなぁ。
麻美と京子は二人揃ってあのC5の大ファンで。
目をキラキラと輝かせて
息ピッタリ、鼻息をあらげてC5のプロフィールを誰かへご丁寧に説明してくれている。
なぜだか、
リーダーの神楽木だけは様付けで呼ばれていて。
凄く、おかしく感じる。
あんな奴に様付けなんて、
絶対一度もしたくない。
あんな人を見下したような人間なんかに。
ーーーーーーー
二人のC5の話を聞いていると、
私の家に近づいてきていることに気がついた。
ま、マズイ!!!
どこかで下ろしてもらわなきゃっ
と、取り敢えず目の前に見えた豪邸を指差した。
まさか…
こんな豪邸が私の家のはずがないのだが…
運転手さんはどうも私の言葉を信じたみたく、
車を停車してくれた。
鞄を持ち、
車を下りる。
と、
と、車の窓を開けて言う麻美たちに、
営業スマイルを見せた。
と、言って目の前にある豪邸の門を開ける…
フリをする。
すると、急に家のドアが開いたかと思えば、
家政婦だろうか、
エプロンをきた女性が現れたので
ビクッ!と過剰に体が反応した。
でも、麻美たちは気づいてない様子…
少しだけ、ホッとする。
が、麻美たちは良いとして、
この豪邸の人達に怪しまれては困る!
麻美たちを乗せた高級車が走り去っていくのと同時に、私の目の前にはさっきの家政婦さんがっ!
や、やばいっ!!
それだけ言って、
私は本当の家の方へと走り出した。
《今日も1日乗りきったぁー。
本当はコソコソなんてしたくない。けど…
考えちゃダメ。
目立ったりしたら、
次に庶民狩りにあうのは私だ。
私は何が何でも学園に居続けて…》
考えながら早足で歩いていると
道端で
プーーーーーッ!
といきなり大きなクラクションが鳴り響いた。
もう、ぶつかる寸前の黒い高級車が!!
もう、ダメだ!!
死ぬ!!
死ぬ覚悟を決めて、
目をつむった。
と、同時に車の急ブレーキの音と共に、
車から誰かが降りてくる気配がした。
よ、よかった…
痛い思いしなくてすんで…。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。