第7話

体育祭があるらしい
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2022/11/05 08:23
体育祭。
我々保健委員会にとって1番忙しい日になるとか何とか、先輩がぼやいていた。
体育祭が憂鬱なのは私も同じで、クラスのクジでリレーのメンバーに選ばれてしまっていたのだ。
結野村 夕絆
(どうして私、クラスリレーなんかに当たったんだろう)
だって、放課後の保健委員会の時間が奪われてしまうじゃんか。
それが本当に憂鬱、あぁ駄目だなぁ。
ずっとネガティブなこと考えちゃってる。
あの日から夜九良先輩は私に対する態度を急速に和らげた、ただいつもクールというか、まぁ、冷たいところはあるかもだけど。
霞沢 みはね
ゆーっき!
今日リレーの練習だよ。
ほんっっっとに楽しみだね!
結野村 夕絆
あぇ……。
私にとっては憂鬱でしかないよ……。
この人は霞沢かすみざわみはね。
明るくて、元気で運動が大の得意な私の友人だ。
霞沢 みはね
んー?
あーそっか!夕絆はクジ引き枠だったよね……。
それは確かに憂鬱だぁぁ。
え、でも夕絆って運動できる方じゃなかったっけ?
結野村 夕絆
そんなことないよ、人並み。
霞沢 みはね
えー?!この前100メートル走めっっちゃ早かったじゃーん!
結野村 夕絆
そ、そうです……かね。
霞沢 みはね
そうだよーっ!自信もって!
そう言って片目を瞑り、ウィンクをする姿はお星様がトゥインクルしてるのか……?
と思うくらいキラキラしてた。
体育着に着替え、ストレッチをしている最中。
私は校庭にいる1人の男性を見ていた。
結野村 夕絆
(なんだっけ、あの人。生徒会長……だったかな。)
我が校の生徒会長。
名前は確か……。
モブ男
よっ、冬月!
気合い十分じゃねぇか。
冬月 茜
そう言う君こそ。
気合い満タンっていう感じだね。
僕も足引っ張らないようにしなくちゃなぁ。
そうそう、冬月ふゆつきあかね
真面目って感じの人で生徒会長としての挨拶がすごく立派だったのを覚えてる。
それと同じく、貼り付けたような笑顔が怖いヒトだったなって、肌で感じて……。すこし、怖い人だなぁとも思った。
でも今はあのとき感じた雰囲気なんてものはなくって、爽やかな先輩っていう年相応の雰囲気に感じる。
赤組のはちまきをつけてるから、同じチームの人だと思う。
ずっと見ていたことを悟られたのか、バッチリ目があってしまった。
気まずくなってサッと目をそらす。
冬月 茜
はじめまして。
さっきから僕を見ていたようだけど、変なものでもついていたかな?
結野村 夕絆
っへ?!
あ、はじめまして。
生徒会長さんもリレーの選手なんだなって思って……。気持ち悪かったですよね。ごめんなさい!
冬月 茜
あぁ、そうゆうことか。
実は僕、クジ引きで選手になってしまってね。
正直リレー、参加したくないんだ。
秘密だよ。
と生徒会長はにこやかに笑っていった。
その笑顔をみて、背筋がゾッと凍りつくような感覚がした。
結野村 夕絆
(この笑顔だ、私がこの人のことを怖いと思ってしまったのは。)
結野村 夕絆
そ、そうなんですね。
私もリレー、クジ引き枠なんです。
お互いクジ引き枠同士頑張りましょうね!
冬月 茜
うんうん。
お互い、頑張らないとね。
そう言って、生徒会長は去っていった。
やっぱり、あの人のことはちょっと怖い。
貼り付けたような笑みも、優しげに細められた瞳にも冷たくて、触れちゃいけないようなものを感じてしまう。
その時、私は何も知らない。
先輩の心の温度も。
あの無機質な瞳の色も。
何もかも。

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