俺の名前は稲葉海斗(いなばかいと)16歳高2。
今俺はテントの下で椅子に座りながら運動場を見ている。運動場では全校生徒が楽しそうに走り回っている。今行われているのは学校の伝統行事、体育祭。だが俺は参加出来ない。なぜなら俺は心臓病だから。激しい運動をすると心臓が酸素と血を供給しきれなくなる。死に関わる病気だ。だから皆が運動できるのが羨ましい。
「こんな行事いらない」とか「だるい」「サボりたい」などと言うやつは腹が立って仕方がない。代わりたい。俺も走りたいと叫びたくなる。だがそんなことはしない。そんなことをしたらまた海玖が泣きそうな顔をして心配してくるから。海玖に余計な心配をかけたくない。海玖が大好きだから。海玖に悲しい顔をさせたくない。海玖は多分俺のことが好きだ。俺も狂おしいほど海玖が好きだけど、俺はそのことを絶対出さないようにしてる。ただの友達以上の関係には絶対にならない。おれが我慢すれば海玖は笑っていられるから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!