あの後無事にアンチスキルが来て
強盗犯は捕まった
無我夢中に名前を呼ぶ私を見て察したのかどうかは分からないけど
病院に電話し救急車を呼んでくれた警備員には感謝してる。おまけに一七七支部にも連絡してくれたし
無事に病院に来ても
医師に大丈夫だと言われても
私は安心できていなかった
黒子は大能力者で空間移動で誰かの能力があたることなんて滅多にない。
それが私のミスで
私の油断のせいで
黒子に怪我をさせてしまった
どんなに謝っても返ってくる言葉はなくて
いつものように
「お姉様は気にしないでくださいまし」
ってそう言って笑っても
無理させたい訳じゃない
無理に笑わせたいわけじゃない
でも
でも!
目を開けてよ
黒子
そこに
初春さんと佐天さんが勢いよく病室のドアを開けて入ってきた
正直あまり驚きはしなかった
支部に連絡したということは初春さんに伝わるということだから
佐天さんが居るのもあまり驚きはしなかった
今の状況で何を聞いても
何をされても
納得できない
そんな気がする
どうしようもない罪悪感と
訳の分からない感情が
胃のあたりからくつくつと湧き上がる
身体に力が入って身体が痺れる
小さな声であまり聞き取れない様な小ささだけど
確かに黒子の身体が動いた
知ってる
この感覚を私は何処かで知ってる
大覇星祭の時食蜂の能力で黒子達の記憶が消えた時と同じような感覚
分かってる
黒子がこんな嘘を吐かないのも
でも
嘘だと言って欲しい
嘘になって欲しい
全て
時を戻せたら
分かってるんだ
黒子が悪くないのも
私が全部悪いのも
でも
いつものように
私の事
”お姉様”って呼んでよ
本当はお姉様って呼んでとも言えばよかったのかもしれない
だけど
出来ないよね
私のせいだもん
私のせいなのに
わがまま言えないよ
確認するかのように私の事をお姉様と呼ぶ黒子に昔と同じ気持ちを抱いてしまう
記憶を失ってるはずなのに
何も変わってないこの後輩に
私は嫌気がさす
でも
名前じゃなくお姉様と呼んでくれるこの子にどうしても
愛着が湧いてしまう
ワガママだって分かってる。
でも、どうしても。
黒子から呼ばれる名前は《お姉様》が良い
なんでも言うことを聞いてくれて
こんなに素直に私の名前を呼んでくれるこの子を
私は抱きしめた
黒子に抱きついたのは泣き顔を見られたくなかったから
ただそれだけ
いつもと変わらない声で
いつもと変わらないように
黒子は私を慰めてくれる
でも
覚えていないんだよね
記憶...ひとつも残ってないんだよね
その現実が私の胸に釘を刺す
出来るだけ早く
黒子の記憶が戻ればいい
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。