前の話
一覧へ
次の話

第9話

写る瞳 - 1 -
55
2022/09/28 08:00
白菊 天音
白菊 天音
───よし、みんな集まったね
二日後、部室にて。

四人でひとつの机を囲み、自分たちが調べあげた物をそれぞれ机に置いていった。
蘇芳 岬
蘇芳 岬
じゃあまず俺から。部室にあるアルバムとか写真とかを全部チェックして、少しでも違和感があればこのノートに纏めたよ
蘇芳 岬
蘇芳 岬
俺に記憶のない出来事が撮られた写真が五枚、原因は分からないけどなんとなく違和感がある写真が十一枚、ってところかな
蘇芳 岬
蘇芳 岬
記憶のない出来事については一貫性なし。本当にバラバラだよ。でも確かなことは、最近の出来事ではないってこと。少なくとも俺たちが部活で合宿に行った後の出来事は全部覚えてた
白菊 天音
白菊 天音
···合宿、か
一宮 尋葉
一宮 尋葉
そういえば、合宿の帰りの記憶がない気がする
白菊 秀
白菊 秀
天音に川に流されてた時の記憶がないのと似ててピンポイントだな。でも確かに、合宿の帰りの記憶がない
白菊 天音
白菊 天音
行きも帰りもバスだよね?合宿の場所は山奥のキャンプ場。コテージに寝泊まりして夜空の写真を撮ってた
蘇芳 岬
蘇芳 岬
そうだね。でも、帰りの記憶だけがない
考えれば考えるほど、その違和感が目立つ。
なぜ、合宿のことを今まで思い出せなかったのだろう。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
じゃあ次、インターネットで調べた結果の話ね
一宮 尋葉
一宮 尋葉
単刀直入に言う。なにもなかった
一宮 尋葉
一宮 尋葉
記憶喪失の心理学から都市伝説まで広く調べてみたんだけど、今回のことと繋がるようなことは見つからなかった
一宮 尋葉
一宮 尋葉
唯一気になったのが、既視感デジャヴの原理。いろいろあったけど、虚構世界とかよく分からないことが書いてあって信ぴょう性は低かったよ
既視感デジャヴ。私たちはその真逆の状況に陥っているから、逆に気になったりするよね。
でも···虚構世界、か。何か引っかかるな。
白菊 秀
白菊 秀
じゃあ最後に図書館組···俺と天音の成果
白菊 秀
白菊 秀
···まぁ、正直に言うとひとつしか無かった
秀がそう言って机に置いたのは、一冊の薄い本。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
なに、この本···。すごく古そうだけど···
蘇芳 岬
蘇芳 岬
···『都市伝説・平行世界について』
一宮 尋葉
一宮 尋葉
平行世界?なにそれ
白菊 秀
白菊 秀
···まぁ、所謂いわゆるパラレルワールドのことだな
一宮 尋葉
一宮 尋葉
パラレルワールド、ね···。今の状況にどんな関係があるの?
白菊 天音
白菊 天音
···それを、今から説明するね
私はそう言って、机に置いた本の、予め付箋を付けておいたページを開いた。
白菊 天音
白菊 天音
パラレルワールドとは、ある世界、つまり時空から分岐し、それに並行して存在する別の世界のこと。そのことから平行世界とも呼ばれてる
白菊 天音
白菊 天音
簡単に言うと、昨日私がアイスを食べたか食べていないかで分岐が起こるとしたら、アイスを食べた世界線が私たちが今いる世界。そして、アイスを食べてない世界線は、私たちの世界から見たパラレルワールド、つまり平行世界になるんだ
白菊 天音
白菊 天音
で、問題はここ
私はそう言って、ひとつの文を指さした。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
『平行世界の住人を自分たちの世界へ招くことができるか否か』···?
白菊 秀
白菊 秀
そう、その文
白菊 天音
白菊 天音
長いから結果から話すけど、平行世界の住人を自分たちの世界へ招くことは不可能では無い、らしい
一宮 尋葉
一宮 尋葉
····え?
白菊 天音
白菊 天音
私も秀も初めて読んだ時は信じられなかったけど、この項目全部読んでみたらありえない話ではないと思ったよ。だって今、現実で起きているから
その私の言葉に、尋葉の息がピタリと止まった気がした。
白菊 天音
白菊 天音
平行世界の住人を自分たちの世界へ招く方法。それはずばり、平行世界の住人の記憶・・を自分たちのものにするということ
一宮 尋葉
一宮 尋葉
記憶···?自分たちのものにする···?どうやって、そんなこと···
白菊 天音
白菊 天音
───思い出を、奪うんだよ
私がそう言うと、息を飲む音が聞こえた。
白菊 天音
白菊 天音
方法は何か媒介が必要なこと以外は分からない。でも、その平行世界にいた思い出を奪って、自分の世界の記憶へとすり替える。そうしたら、平行世界の住人を自分の世界へ招くことは可能だって、この本には書いてあった
白菊 天音
白菊 天音
···ねぇ。私たちの思い出、どこに行ったんだろうね
それだけ言って、本を閉じる。この文はもう読みたくなかった。
白菊 秀
白菊 秀
まぁ言ってしまえば、俺たちの世界線とは異なる平行世界がどっかにあって、そこの奴らの誰かが、そいつらからしたら平行世界の住人である俺たちを自分たちの世界に招こうとしてるのなら、今の状況に説明がつくってわけだ
白菊 秀
白菊 秀
突然タイムカプセルが増えたのも、思い出が徐々に消えていくのも、暴論かもしれんがこの平行世界パラレルワールドの住人が俺らを招こうとしてる説が今のところ有力だと思ってる
蘇芳 岬
蘇芳 岬
···つまり、記憶が徐々に消えていくのは平行世界の住人に思い出を奪われているからで、俺らの思い出を奪うための媒介はあのタイムカプセルっていうこと?
白菊 天音
白菊 天音
そう、なるね
一宮 尋葉
一宮 尋葉
···そ、そんなファンタジーなこと有り得る?平行世界だなんて···
白菊 天音
白菊 天音
でも平行世界は私たちの宇宙と同一の次元を持つ、らしいから案外ファンタジーでもないんだよ
あまりの衝撃の事実に言葉を失う二人を見て、私と秀は顔を合わせて苦笑した。
白菊 秀
白菊 秀
まぁ、問題は思い出を奪われないようにするにはどうしたらいいかってことだよな。できるなら奪われた分も取り返したいし
蘇芳 岬
蘇芳 岬
…うん、そうだね


突然として浮上した平行世界パラレルワールド説。

私もいきなりこんな話が大きくなるとは思わなくて、まだ少し混乱している。

でも説得力は確かにあって、だからこそ、太刀打ちする方法が検討もつかないことに嫌気がさす。


この話がただの妄想だったら良かったのに、と私は静かに目を閉じて心を落ち着かせた。

プリ小説オーディオドラマ