三つのタイムカプセルが見つかってから一週間。
この一週間で、ちょっとした違和感があった。
少しずつ、少しずつ、みんなと思い出を共有できなくなっていったのだ。
あの日のこの出来事が、と言えば、あー、あったようななかったような、と返ってきたり。
この時ってさ、と言えば、ごめん忘れた、と返ってきたり。
でも今日は、違和感が確信に変わった。
物事を忘れることが滅多にない尋葉が、数ヶ月前の印象的な出来事を忘れていたのだ。
困惑する尋葉の反応を見て、私は後ろの棚にあるタイムカプセルのうち一つを手に取る。
尋葉はそう言って自分宛の手紙を読み始め、少し時間が経つと顔色を悪くして私の方を見つめた。
大丈夫。だなんて、根拠の無い励ましをしても尋葉の不安を煽ることは分かっているのに。
おかしい。今までは「まぁ前のことだし忘れてもおかしくはないよね」で済んだのに。
今回は大きな出来事を、記憶力のいい尋葉が忘れていた。
しかも、手紙を見て思い出せない。
···もしかして、記憶喪失?
私に川に流されていた時の記憶が無いのと、忘れられた大事な記憶を思い出せないのと、何か関係がある?
震える声でそう呟けば、部室の外から話し声が聞こえてきた。
秀と岬だ。
ガラリ、と扉が開いて、ビニール袋を手に提げた秀と岬が部室に入ってくる。
すぐに異変を察知したのか、秀が荷物を床に置いてこちらへ寄ってきた。
尋葉がそう言って俯くと、さっきまで立っていた秀と岬が椅子に座って難しい顔をした。
そうして、みんなの目が合わさる。
私はそう言ってゆっくり立ち上がる。
みんなも私に続いて立ち上り、荷物をまとめ始めた。
────「「「「解散!!」」」」
そうして私たちは、忘れ物を探りだす。
まだ何か、喉に突っかかるような違和感を抱えて。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。