第8話

違和感
15
2022/09/27 08:00
三つのタイムカプセルが見つかってから一週間。


この一週間で、ちょっとした違和感があった。

少しずつ、少しずつ、みんなと思い出を共有できなくなっていったのだ。

あの日のこの出来事が、と言えば、あー、あったようななかったような、と返ってきたり。
この時ってさ、と言えば、ごめん忘れた、と返ってきたり。


でも今日は、違和感が確信に変わった。

白菊 天音
白菊 天音
───でさ、その時···
一宮 尋葉
一宮 尋葉
え?そんなことあったっけ?
白菊 天音
白菊 天音
···え?
物事を忘れることが滅多にない尋葉が、数ヶ月前の印象的な出来事を忘れていたのだ。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
そんなことなかったと思うけど···
白菊 天音
白菊 天音
で、でも、尋葉、そのことタイムカプセルの手紙に書くって言ってたくらいだよ?
一宮 尋葉
一宮 尋葉
え···
困惑する尋葉の反応を見て、私は後ろの棚にあるタイムカプセルのうち一つを手に取る。
白菊 天音
白菊 天音
きっと手紙に書いてあるはず。自分の読んでみて
一宮 尋葉
一宮 尋葉
う、うん···いいけど···
尋葉はそう言って自分宛の手紙を読み始め、少し時間が経つと顔色を悪くして私の方を見つめた。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
···こ、これ。書いてある。その出来事
一宮 尋葉
一宮 尋葉
でも、私にそんな記憶ない。手紙見て思い出したとかもない。···どうしよう、天音。私、思い出を思い出せない!
白菊 天音
白菊 天音
ひ、尋葉!落ち着いて!大丈夫、きっと思い出せるから。だから···
大丈夫。だなんて、根拠の無い励ましをしても尋葉の不安を煽ることは分かっているのに。

おかしい。今までは「まぁ前のことだし忘れてもおかしくはないよね」で済んだのに。
今回は大きな出来事を、記憶力のいい尋葉が忘れていた。

しかも、手紙を見て思い出せない。


···もしかして、記憶喪失?


私に川に流されていた時の記憶が無いのと、忘れられた大事な記憶を思い出せないのと、何か関係がある?
白菊 天音
白菊 天音
一体、私たちに何が起こってるの···?
震える声でそう呟けば、部室の外から話し声が聞こえてきた。
秀と岬だ。
ガラリ、と扉が開いて、ビニール袋を手に提げた秀と岬が部室に入ってくる。
白菊 秀
白菊 秀
ただいま〜。ほら、頼まれた物買って······何があった?
すぐに異変を察知したのか、秀が荷物を床に置いてこちらへ寄ってきた。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
わ、私、記憶がない
白菊 秀
白菊 秀
···記憶?
白菊 天音
白菊 天音
数ヶ月前のやつだけど、結構印象的な事だったの。私は覚えてて尋葉が覚えてなかったから、その時の尋葉の言葉を元にしてタイムカプセルの手紙を確認してみたら···
一宮 尋葉
一宮 尋葉
確かに、その出来事があって···。でも、私、そのことちっとも思い出せなくて
蘇芳 岬
蘇芳 岬
···つまりそれは、記憶喪失ってこと?
一宮 尋葉
一宮 尋葉
···恐らく、そう
尋葉がそう言って俯くと、さっきまで立っていた秀と岬が椅子に座って難しい顔をした。
白菊 秀
白菊 秀
なるほどな。天音と似て非なる状況、ってわけだ
白菊 天音
白菊 天音
···最近、私がちょっと前の話をするとみんな忘れてる時がたまにある。これって、私たちが何かしらちょっとずつ記憶を無くしていってるってことだよね?
蘇芳 岬
蘇芳 岬
···言われてみれば、確かに
一宮 尋葉
一宮 尋葉
じゃあやっぱり、“忘れてしまった大事な記憶”はあるってことかな
白菊 秀
白菊 秀
だろうな。もともとそんな気はしてただろ?
蘇芳 岬
蘇芳 岬
うん。記憶が雲がかったように見えないなんて、違和感でしかないから
一宮 尋葉
一宮 尋葉
私も、すっぽり抜け落ちた空白の記憶があると違和感があった
そうして、みんなの目が合わさる。
白菊 天音
白菊 天音
このままじゃ、私たちの思い出が全部消えてなくなるよ
白菊 秀
白菊 秀
···それは、困るな
一宮 尋葉
一宮 尋葉
うん。いい迷惑だよ本当
蘇芳 岬
蘇芳 岬
じゃあ、やること決まったね
白菊 天音
白菊 天音
まぁタイムカプセルが三つになった日に決めたはずなんだけどね。どっか抜け落ちてたみたい
私はそう言ってゆっくり立ち上がる。
みんなも私に続いて立ち上り、荷物をまとめ始めた。
白菊 秀
白菊 秀
俺、また図書館行ってくるわ
白菊 天音
白菊 天音
私も行く
一宮 尋葉
一宮 尋葉
私はネット調べてみる。パソコン家にあるから今日は帰るね
蘇芳 岬
蘇芳 岬
俺は部室ここに残って過去の写真見てみる。まだ何か忘れてる記憶があったら報告するよ
白菊 天音
白菊 天音
···じゃあ、みんな
────「「「「解散!!」」」」



そうして私たちは、忘れ物を探りだす。

まだ何か、喉に突っかかるような違和感を抱えて。

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