第3話

三原色 - 1 -
45
2022/09/22 08:00
ガサゴソ、と音を立てながら荷物の整理をする。

寝て起きたら昨日の不安も少しは薄れて、私は朝から退院のための荷物の整理をしていた。
白菊 天音
白菊 天音
お見舞いの品多いな···どうしよう、私ってめっちゃ人気者な感じ?アイドルなれるかな···
一宮 尋葉
一宮 尋葉
なに馬鹿なこと言ってんの
白菊 天音
白菊 天音
なにぃ!?私のどこが馬鹿な·····の···
白菊 天音
白菊 天音
···
白菊 天音
白菊 天音
···ひひひ尋葉!?!?ななな何でここに!?
一宮 尋葉
一宮 尋葉
動揺しすぎ
急に私の背後に誰か現れたと思ったら、それはよく知った人物だった。

彼女の名前は一宮いちみや尋葉ひろは。中学からの親友で、私が所属する写真部の仲間でもある。

ちなみに秀も写真部員。よく喧嘩するけど何だかんだ趣味は一緒だしなんなら苦手なものも一緒。大変遺憾である。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
この前お見舞い来た時に天音起きてなかったからまた来ようと思ってたのに、起きたらもう退院だって聞いたから急いで来たんだけど
白菊 天音
白菊 天音
えっ、そうなの?
一宮 尋葉
一宮 尋葉
だって、ほら···それ、私が持ってきたお見舞いの品
そう言って尋葉が指さした所には、お見舞いの品の中でもお気に入りだったシンプルなクマさんのぬいぐるみ。
白菊 天音
白菊 天音
あ···ほんとだ。確かに尋葉の作品ぽいかも
一宮 尋葉
一宮 尋葉
でしょ〜。短期間で作ったけど上手く縫えたからこれからも大事にしてね
白菊 天音
白菊 天音
うん!ありがとう!
私はそう言ってから、手に取ったぬいぐるみに目を落とす。

···器用だなぁ。

私だったらこんな売り物みたいな作品作れないよ。さすが元手芸部。高校に手芸部がないからって私が部長の写真部に入ってくれたけど、やっぱ少し勿体ないなぁ。

まぁ、完成した作品を撮影した写真はめっっちゃ可愛いのは変わりないけど。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
···で、何?今はそのお見舞いの品たちをどう持って帰るか悩んでるのかな?
白菊 天音
白菊 天音
そうなんだよ〜!いっぱいあって嬉しいんだけど、カバンに入らなくて···
一宮 尋葉
一宮 尋葉
なるほど···。そうだ、ちょっとカバン貸して
白菊 天音
白菊 天音
えっ?あ、うん!いいよ!
そうして尋葉にカバンを渡せば、尋葉は散らかるお見舞いの品を丁寧にカバンへ入れ始める。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
これを···こうして、こうすれば
一宮 尋葉
一宮 尋葉
よいしょ···っと。はい、これでどう?
白菊 天音
白菊 天音
えっ、嘘!?すごい!!全部収まった!!
一宮 尋葉
一宮 尋葉
入れる順番と場所ちょっと考えれば天音もすぐ出来るよ
白菊 天音
白菊 天音
へぇ〜!今度機会があったらやってみる!コツ教えて!!
一宮 尋葉
一宮 尋葉
はいはい。それは片付け終わったらね
白菊 天音
白菊 天音
えぇ〜
一宮 尋葉
一宮 尋葉
えぇ〜じゃないの。ほら、私も手伝うから動いた動いた
白菊 天音
白菊 天音
ちぇっ。はぁーい
尋葉に促されて立ち上がる。
衣類は一番初めに整理したから、次片すのは小物類。一応さっき整理する物を一箇所に集めたけど見落としがないかな、と部屋を見渡す。


───すると。
白菊 天音
白菊 天音
···?なにこれ
低い棚の上に、ひとつの箱。
白菊 天音
白菊 天音
···これ、タイムカプセル?
今年の春に学校の桜の木の下に埋めた、写真部四人のタイムカプセル。

赤い缶箱の側面に“TimeCapsule”とカッコつけた英字が書かれているから間違いは無い。
白菊 天音
白菊 天音
どうして春先に埋めたタイムカプセルがこんな所に···
それに、とタイムカプセルを手に持って、それを親指の腹で撫でる。
カサリ、と音がして、砂がパラパラとこぼれ落ちた。
白菊 天音
白菊 天音
砂まみれ。しかも泥も付いてるし···
まるで、“今”掘り起こしたみたい。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
天音?どうしたの?
白菊 天音
白菊 天音
わぁっ!?···な、なんだ、尋葉か···!驚かさないでよ!
一宮 尋葉
一宮 尋葉
えぇ?そんなつもり無かったんだけどな···
白菊 天音
白菊 天音
心臓止まった
一宮 尋葉
一宮 尋葉
止まらない止まらない。でもまぁ、驚かせてごめんね
白菊 天音
白菊 天音
うん。心臓鍛えとくね
一宮 尋葉
一宮 尋葉
···そうしてください
一宮 尋葉
一宮 尋葉
はぁ···それで?その手に持ってる箱は?どう見ても土の中にあるはずのタイムカプセルだけど
まさか掘り起こしてないよね?なんて疑いの目を向けてくる尋葉。
違います!私やってません!!冤罪です!!
白菊 天音
白菊 天音
···お見舞いの品かな?
一宮 尋葉
一宮 尋葉
そんなわけないよ
一宮 尋葉
一宮 尋葉
でも···やるとしたら秀、だね。···秀から何か聞いた?
白菊 天音
白菊 天音
ううん、何も
二十歳になるまで掘り起こさにないと約束したタイムカプセルが、なぜここにあるのだろう。
検討もつかなくて、少し怖い。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
···病院からの帰り、学校の前通るから寄って確認してみる?桜の木
白菊 天音
白菊 天音
そうする。お父さんに連絡しなきゃね
一宮 尋葉
一宮 尋葉
うん
尋葉がいて良かった。
一人だったらきっと、怖くて震えていたかもしれない。
白菊 天音
白菊 天音
中身、開けるのはまだ怖いなぁ
一宮 尋葉
一宮 尋葉
私も怖いからまだ開けないでね
白菊 天音
白菊 天音
開けないよ。···今はまだ、だけど

川に落ちるし、記憶なくなるし、なぜかタイムカプセルここにあるし。

ほんと、散々だ。

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