第7話

切取る
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2022/09/26 08:00
───ガラリ、と部室の扉が開く。
白菊 秀
白菊 秀
···お、岬じゃん。はよ
白菊 天音
白菊 天音
おはよー!
蘇芳 岬
蘇芳 岬
うん、おはよう
タイムカプセルが三つあると判明してから二日目。
八月中旬で夏休みも後半に差し掛かり、こうして朝から部活を始めるのもあと少しで終わることになる。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
あ、みんな揃ってるね。おはよー
白菊 天音
白菊 天音
おはよー尋葉!
白菊 秀
白菊 秀
はよ
蘇芳 岬
蘇芳 岬
おはよう
尋葉が荷物を置いて椅子に座り、写真部全員が集まって今日の部活が始まった。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
今日は校外に行って自由に撮影?
白菊 天音
白菊 天音
うん!そんな感じ!
白菊 秀
白菊 秀
忘れたかもしれない記憶のヒントを探すのも忘れずにな
一宮 尋葉
一宮 尋葉
はいはい、りょーかい
忘れたかもしれない記憶、と言われて、ふと部室の棚に並べてある三色のタイムカプセルを見上げた。

忘れてしまった大切な記憶が何か分かるまで、って言ってもそれがいつか分からないから、タイムカプセルは夏休みいっぱいでまた桜の木の下に戻ることになる。

残された時間はあと少し。

けれど、何だか焦りは湧いてこなかった。
蘇芳 岬
蘇芳 岬
じゃあ、出発しよう






白菊 天音
白菊 天音
よし、今日はここら辺で自由行動ね!あまり遠くには行かないでよ〜
一宮 尋葉
一宮 尋葉
行くとしたら天音か秀だから気をつけてね
白菊 天音
白菊 天音
うっ···気をつけます
白菊 秀
白菊 秀
···気をつける
私たちの町が一望できる高台が今日の撮影場所。
空は晴天で、良い撮影日和だった。
白菊 天音
白菊 天音
···きれいな青
ポツリとそう呟いて、私は青空を切り取るようにシャッターを切る。

さっきみんなが居た方を振り返ればもうそこに誰もいなくて、みんながみんな違う写真を取りに行ったのだと知った。
白菊 天音
白菊 天音
ん〜、やっぱ一人は寂しいな。少し歩こう
歩けば誰かと会えるかも。なんてちょっとした希望を持ちながら高台の緩やかな坂を歩く。

さらり、と風が吹いて、夏の匂いが鼻をかすめる。
髪が揺れて、風は頬を撫でるように過ぎていった。
白菊 天音
白菊 天音
───なんか、今の感覚···
どこかで。


そう思ったけれどよく分からなくて、なんとなく坂を登った先を見つめた。

そこには、一人の影。
白菊 天音
白菊 天音
あ、秀だ
写真を撮っているのかと思ったけど、カメラはただ握るだけで遠くの空を見つめている。

────ぞくり。

秀のその穏やかな表情を見た瞬間、全身に得体の知れない何かが駆け巡った。


あの表情は、あの穏やかな表情は、きらいだ。
駄目。やめて。そんな表情かおしないで。

それを見たとき、すごく悲しくて、苦しくて、それで。

それで、思ったんだ。


おいていかないで─────

白菊 秀
白菊 秀
···天音?
白菊 天音
白菊 天音
····ぇ、あ
白菊 秀
白菊 秀
どうしたんだよ、置いていくなって。一緒に回りたかったのか?
白菊 天音
白菊 天音
あ、え、こ、声に出てた···?
白菊 秀
白菊 秀
思いっきりな。服まで掴んでくるし
秀がそう言って目線を落とした先を見れば、確かに私の手が秀の服の袖を掴んでいた。
白菊 天音
白菊 天音
えっ、あ、ほんとだ。ごめん···
白菊 秀
白菊 秀
いや別に怒っちゃいないけど···大丈夫か?顔色悪そうだけど
白菊 天音
白菊 天音
ああ、うん。大丈夫
白菊 秀
白菊 秀
そ。ならいいよ。で?一緒に回る?
白菊 天音
白菊 天音
うん
白菊 秀
白菊 秀
はいはい。俺の行きたい所行くから文句は言うなよ〜?
白菊 天音
白菊 天音
言わない
白菊 秀
白菊 秀
言質取ったからな。よし、じゃあ行くぞ
そして秀は、ん、と左手をこちらに差し出してくる。
白菊 天音
白菊 天音
···?なに?
白菊 秀
白菊 秀
手ぇ繋ぐんだよ。ずっと服の裾掴まれると服が伸びるからヤダ。だからほら、手
白菊 天音
白菊 天音
いいの?
白菊 秀
白菊 秀
何言ってんの、恋人じゃあるまいし。こちとら双子なんだよ。今更今更
白菊 天音
白菊 天音
···そう、だね。ありがとう
白菊 秀
白菊 秀
どーいたしまして
そう言って笑う秀を見て、差し出された手を握り返す。
すると、秀は満足したように一度頷いてからまた歩き出した。
白菊 秀
白菊 秀
···なんか今の俺、めっちゃ兄じゃない?
白菊 天音
白菊 天音
残念。永遠に弟だよ
白菊 秀
白菊 秀
は?
白菊 天音
白菊 天音
は?
そうして、手を繋いだまま第2569回姉兄論争が幕を開けるのだった。





一宮 尋葉
一宮 尋葉
じゃあね、お疲れ
白菊 天音
白菊 天音
お疲れ〜
蘇芳 岬
蘇芳 岬
あれ?天音は部室に残るの?
白菊 天音
白菊 天音
そう。写真の現像するから
蘇芳 岬
蘇芳 岬
そっか。いいのが出来るといいね
白菊 天音
白菊 天音
うん!
白菊 秀
白菊 秀
俺も先帰ってる。遅くなるなら連絡しろよ
白菊 天音
白菊 天音
はーい
そうして部室の扉が閉まる音がして、私は一人になった。

夕日が差し込む部室に一人でいるのは、少し寂しいけど優越感がある。
白菊 天音
白菊 天音
よし、さっそく······ん?これ、岬のカメラ?
持って帰らなかったのかな。それとも忘れ物?

どちらか分からず、なんとなく岬のカメラを手に取って起動してみる。
白菊 天音
白菊 天音
やっぱ写真撮るの上手いなぁ。写真部勧誘して良かった
白菊 天音
白菊 天音
···これ、盗み見になるのかな
そう思って、少し罪悪感が湧いたのもつかの間。
白菊 天音
白菊 天音
あれ?なんか···
私たちの後ろ姿の写真が多い、気がする。

岬はいつも風景ばっかり撮って逆に私たちを写してくれることは少なかったのに。
心境の変化かな。なんか嬉しいな。
白菊 天音
白菊 天音
···ふふ、写真の中の私たちすごく楽しそう
まるで、楽しい思い出を切り取るかのように。


こうして思い出が増えていけばいいなぁ、と、写真の中にいる楽しそうな私を見てそう思った。

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