第4話

三原色 - 2 -
37
2022/09/23 08:00
一宮 尋葉
一宮 尋葉
っはぁ···着いた
白菊 天音
白菊 天音
はぁ···校舎裏の階段登るとまた敷地があるなんてこの学校くらいな気がする···。階段長い!疲れた!!
一宮 尋葉
一宮 尋葉
まぁまぁ。それより···ほら、これ
白菊 天音
白菊 天音
あ、スコップ。ありがとう!
一宮 尋葉
一宮 尋葉
いーえ。じゃあ、タイムカプセルあるか確かめよっか
白菊 天音
白菊 天音
うん!
お父さんの迎えが来て数時間後。
学校の前で車から下ろしてもらった私と尋葉は、桜の木の下にタイムカプセルがあるかどうか確かめに来た。

ここにタイムカプセルがあれば、病室で見つけて今は手元にあるこの箱が偽物だってことが証明される。
同時に、タイムカプセルがなければこれは正真正銘の私たちが埋めたタイムカプセルということになるのだ。
白菊 天音
白菊 天音
よっ、と
ときどき深さを確かめながら、慎重に土を掘る。
ずっとしゃがんでいると腰が痛くなって来そうだから早めに終わらせたいな。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
···深さ、このくらいだね。もうそろそろ出てくるんじゃないかな
白菊 天音
白菊 天音
うん。それに、出てこなくても何かしら跡くらいは···
────ゴッ、と、スコップの先端が硬い何かにぶつかる音がした。
白菊 天音
白菊 天音
!!何かある!
そう言ってスコップを地面に置いて手で土をはらうと、土の中から箱が出てきた。

····タイムカプセルだ。
白菊 天音
白菊 天音
尋葉!これタイムカプセル!
一宮 尋葉
一宮 尋葉
じゃあ、病室にあったあの赤い箱は偽物······
一宮 尋葉
一宮 尋葉
·····ちょっと待って
白菊 天音
白菊 天音
···?どうしたの?
一宮 尋葉
一宮 尋葉
これ····
────青い缶箱だよ。

尋葉はそう言って掘り起こしたタイムカプセルを見つめた。
白菊 天音
白菊 天音
······ぇ
うそだ。だって、私たちがここに埋めたのは赤い····

·····あれ?何色、だっけ。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
何かおかしいよ。だって、病室にあったタイムカプセルは赤だったのにここにあるのは青。でも両方とも違和感がない。まるで、どっちも本物みたいに···
蘇芳 岬
蘇芳 岬
────あれ?天音に尋葉。こんな所で何やってるの?
ふと、後ろから声を掛けられる。

振り向けば、そこには写真部の仲間である蘇芳すおうみさきが立っていた。
···スコップを、持って。
白菊 秀
白菊 秀
おい岬!俺を置いて行······どうした?
蘇芳 岬
蘇芳 岬
いや、俺が来た時に天音と尋葉が桜の木の下で何かやってたから···
白菊 秀
白菊 秀
はぁ?お前ら何しに来たんだよ
岬の後に階段を登ってきたのは秀だった。
今頃は家に居るはずなのに何故。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
そっちこそ、何しに来たの?
尋葉がそう返せば、二人は少しバツが悪そうに目線を落とした。
蘇芳 岬
蘇芳 岬
それが···
そうして、差し出される箱。
白菊 天音
白菊 天音
·····っ!!
そんな、まさか。
白菊 秀
白菊 秀
今朝起きたら俺の部屋にあったから驚いて、とりあえず岬に電話したんだけど···
そんなはずは。
蘇芳 岬
蘇芳 岬
俺も秀も見に覚えないから、ここまで確かめに来ようってなって···
だって、それは────
一宮 尋葉
一宮 尋葉
黄色い、タイムカプセル···
あるはずのない、三つ目のタイムカプセル。
蘇芳 岬
蘇芳 岬
?どうしたの?二人とも顔色悪いけど·····
不思議そうな顔をする岬に、尋葉が二色のタイムカプセルを差し出す。
すると、岬の動きがピタリと止まった。
蘇芳 岬
蘇芳 岬
·········これ、もしかして
一宮 尋葉
一宮 尋葉
···うん。私たち・・・のタイムカプセル
白菊 秀
白菊 秀
···そんなことあるかよ普通
絶句する二人を見て、ああそうだ。この不思議が怖いのは私だけじゃないんだ。と少しだけ安心した。
白菊 天音
白菊 天音
でも、違和感ないでしょ?
蘇芳 岬
蘇芳 岬
···確かに、言われてみれば
白菊 秀
白菊 秀
おいおい···勘弁してくれよ···
何が起こっているのか分からない。みんなの気持ちはそれだけだった。
蘇芳 岬
蘇芳 岬
ちなみに、その二つはどこで見つけたの?
一宮 尋葉
一宮 尋葉
赤色が天音の病室で、青色が桜の木の下。さっき掘り起こした
白菊 秀
白菊 秀
病室···?昨日はなかった気がするけど···
白菊 天音
白菊 天音
私だってそうだよ。でも今朝にはタイムカプセルがあった
白菊 秀
白菊 秀
なんだよそれ···怪奇現象か何かじゃないだろうな?
蘇芳 岬
蘇芳 岬
都市伝説っていう線は?
白菊 天音
白菊 天音
···そんなこと現実で有り得るのかな
都市伝説も怪奇現象も、物語の上でしか見た事のない作り話。そんなこと、現実にいる私たちに降り掛かることなんてあるのかな。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
···有り得るよ、怪奇現象に都市伝説、どっちも
白菊 天音
白菊 天音
···どうして、そう言えるの?
疑う私の言葉に、尋葉はだってさ、と続ける。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
───みんな、タイムカプセルを埋めた時のこと覚えてる?
すっ、と、背筋が冷えた瞬間だった。
白菊 秀
白菊 秀
···いや、覚えてない···な
蘇芳 岬
蘇芳 岬
俺も···なんか、記憶が雲がかったみたいに···
白菊 天音
白菊 天音
でも、確かにみんなここへ集まってタイムカプセル埋めたよね···?二十歳になるまで掘り起こさないって約束もした
なのに。タイムカプセルを埋めた時の記憶だけが、すっぽりと抜け落ちている。

まるで、その記憶自体がなかったかのように。
白菊 天音
白菊 天音
···私たち、何か大切なことを忘れてる
川に流されていた記憶だけじゃない。
何か。もっと他の、大切な何かを忘れているんだ。
一宮 尋葉
一宮 尋葉
···そうだね。なぜかそんな気がする
白菊 秀
白菊 秀
でも、それじゃあどうすンだよ。頑張って思い出せって言うのか?
蘇芳 岬
蘇芳 岬
それで思い出せたなら良かったけど···いつ終わるかが問題だね
難しい顔をするみんなを見て、ふと思った。
白菊 天音
白菊 天音
この三色のタイムカプセルに、何かヒントないかな
蘇芳 岬
蘇芳 岬
···ふむ、確かにあるかもしれない
白菊 秀
白菊 秀
まぁなくても、調べれば何かしら出てくんだろ
一宮 尋葉
一宮 尋葉
とりあえず、探ってみる方向で
尋葉がそう言って、私たちは目を合わせる。

────「「うん!」」「おう!」



こうして私たちは、忘れた何かを思い出すために動き始めたのだった。

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