お父さんの迎えが来て数時間後。
学校の前で車から下ろしてもらった私と尋葉は、桜の木の下にタイムカプセルがあるかどうか確かめに来た。
ここにタイムカプセルがあれば、病室で見つけて今は手元にあるこの箱が偽物だってことが証明される。
同時に、タイムカプセルがなければこれは正真正銘の私たちが埋めたタイムカプセルということになるのだ。
ときどき深さを確かめながら、慎重に土を掘る。
ずっとしゃがんでいると腰が痛くなって来そうだから早めに終わらせたいな。
────ゴッ、と、スコップの先端が硬い何かにぶつかる音がした。
そう言ってスコップを地面に置いて手で土をはらうと、土の中から箱が出てきた。
····タイムカプセルだ。
────青い缶箱だよ。
尋葉はそう言って掘り起こしたタイムカプセルを見つめた。
うそだ。だって、私たちがここに埋めたのは赤い····
·····あれ?何色、だっけ。
ふと、後ろから声を掛けられる。
振り向けば、そこには写真部の仲間である蘇芳岬が立っていた。
···スコップを、持って。
岬の後に階段を登ってきたのは秀だった。
今頃は家に居るはずなのに何故。
尋葉がそう返せば、二人は少しバツが悪そうに目線を落とした。
そうして、差し出される箱。
そんな、まさか。
そんなはずは。
だって、それは────
あるはずのない、三つ目のタイムカプセル。
不思議そうな顔をする岬に、尋葉が二色のタイムカプセルを差し出す。
すると、岬の動きがピタリと止まった。
絶句する二人を見て、ああそうだ。この不思議が怖いのは私だけじゃないんだ。と少しだけ安心した。
何が起こっているのか分からない。みんなの気持ちはそれだけだった。
都市伝説も怪奇現象も、物語の上でしか見た事のない作り話。そんなこと、現実にいる私たちに降り掛かることなんてあるのかな。
疑う私の言葉に、尋葉はだってさ、と続ける。
すっ、と、背筋が冷えた瞬間だった。
なのに。タイムカプセルを埋めた時の記憶だけが、すっぽりと抜け落ちている。
まるで、その記憶自体がなかったかのように。
川に流されていた記憶だけじゃない。
何か。もっと他の、大切な何かを忘れているんだ。
難しい顔をするみんなを見て、ふと思った。
尋葉がそう言って、私たちは目を合わせる。
────「「うん!」」「おう!」
こうして私たちは、忘れた何かを思い出すために動き始めたのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。