第2話

転換点
27
2022/09/21 22:00
────蝉の声が聞こえる。
白菊 天音
白菊 天音
ん···
ぱちり、と目を開けた。
朝に聞こえる小鳥の声と共に蝉が鳴いている。それは、夏の音。
白菊 天音
白菊 天音
ふぁ···ん〜
ベッドから起き上がって欠伸と共に伸びをしたら、少し目が冴えてきた。
白菊 天音
白菊 天音
はぁ···めっちゃねむい···なにこれ、体重いし
そうポソリと呟くと、コンコン、と扉をノックする音が部屋に響いた。
そして、ガラリと扉が開く。
白菊 秀
白菊 秀
はよ。今日も見舞いに·······って、は!?天音あまね!?!?
白菊 天音
白菊 天音
え·····え?秀?どういうこと?見舞い···?そういえばここって···なんか病室みたいな···
見知らぬ部屋、しかも病室らしき場所にいる自分に混乱する私を他所に、見知った人がカツカツと靴音を大きく鳴らして私に近付いた。
白菊 秀
白菊 秀
意識が戻ったならナースコール押せ!!!!
どうやら私は意識不明の重体だったらしい。
どおりで体が重いわけだなぁ。それにガーゼも貼られてるし。
白菊 秀
白菊 秀
聞いてンのか!?
白菊 天音
白菊 天音
エッ!?アッ、はい!!すみません!!!
とりあえず秀の圧がすごいことだけはよく分かった。




白菊 秀
白菊 秀
はぁ···。で?体に異常はなかったのか?
あの後すぐにナースコールを押してお医者さんに私の容態を見てもらった。どうやら私は数日間意識を失っていたらしく、駆けつけた両親に散々大丈夫かと詰め寄られた。

そして、今目の前にいるこの男の子は白菊しらぎくしゅう。私の双子の片割れ。どっちが先に生まれたか言われてないから、いつもどっちが姉だ兄だ論争が始まる。ちなみに秀は絶対に私の弟。異論は認めない。
白菊 天音
白菊 天音
大丈夫だって。病院に通うことにはなるけど明日で退院!
白菊 秀
白菊 秀
川に落ちたってのにしぶといなお前···
川に落ちた。そして流されていた、らしい。

夕方にお使いから帰る秀が川を流れる私を見つけて救出したんだそう。しかし奇妙なことに、私にはその時の記憶が全くない。

記憶喪失にしては喪う記憶がピンポイントだねとはお医者さんの感想だった。
脳に損傷等の異常はないため、様子見をすることになったのだ。それで通院。
白菊 秀
白菊 秀
···誰かに突き落とされた、とかないよな?
何かを抑えた表情で秀がそう言うものだから、私は少しおちゃらけて返す。
白菊 天音
白菊 天音
ないない!誰かの恨みなんて買った覚えないし!
そんな私の様子を見た秀は、ならいいんだけど···と呟く。
白菊 秀
白菊 秀
ま、天音が元気で良かったよ。無事に退院してな
秀はそう言ってベッドの側で下ろしていた腰を上げて、持っていたトートバッグに手を入れ、何かが入ったタッパーを取り出した。
白菊 秀
白菊 秀
見舞いの品、ここに置いとくぞ
白菊 天音
白菊 天音
見舞いの品···?あっ、スイカだ!
白菊 秀
白菊 秀
近所の野田さんちのとこのやつ。さっき収穫して冷やしたばっかだからとびきり美味い。切ってタッパーに入れておいたから好きな時に食えよ
白菊 天音
白菊 天音
···私の弟がこんなにも優しい···!
白菊 秀
白菊 秀
兄、な。間違えてんぞ
白菊 天音
白菊 天音
ん?間違えてんのは秀じゃん。秀は弟、私は姉。アンダスタン?
白菊 秀
白菊 秀
は?お前が妹で俺が兄だが?
白菊 天音
白菊 天音
は?
白菊 秀
白菊 秀
は?
カーン!!!とコングが鳴る。第2568回姉兄論争の幕開け───の、ハズだったけど。
あらあら、ここは病院よ?二人とも
白菊 秀
白菊 秀
い゙っっっ!?!?
白菊 天音
白菊 天音
痛っっっ!?!?
ゴツン!!と頭に響くような音で論争は早くも休戦した。
病室に入ってきた母のゲンコツである。
白菊 秀
白菊 秀
何すんだよ母さん!!痛ってぇな···
白菊 天音
白菊 天音
うぅ〜···痛い···私病人なのに···
あら、天音は秀より優しくしたわよ?痛かった?
白菊 天音
白菊 天音
痛かった!!!
ふふふ、ごめんなさいね
あ、これ「病室で騒いだ報いとしては安い方よね?」って言ってる。こわい。逆らわないでおこう。
白菊 秀
白菊 秀
てか、今の衝撃で記憶戻ったりしてないのかよ?転生漫画とかでよくあるやつ
白菊 天音
白菊 天音
戻ってないし私の記憶喪失を転生漫画と一緒にしないでよね···
まぁでも、本当にそうなら良かったんだけど···。

私が川に流されてたという日は、夏休みだってこともあって一日中家にいた。
だから最後の記憶も部屋でゲームをしていた記憶で···そして、気づいたら病院。
混乱しない方がおかしいだろうな。
···ああ、そうそう。面会時間もう終わるからお母さん帰っちゃうけど、寂しかったらいつでも連絡してね。今日は夜更かしするわ!
白菊 秀
白菊 秀
いや母さんそれ無理だろ···
白菊 天音
白菊 天音
消灯時間あるんだよなぁ···
あらそうなの?残念だわぁ
白菊 天音
白菊 天音
まあ気持ちだけ受け取っとくよ
あ、それと、明日の退院のお迎えはお父さんが行くって言ってたわよ。お昼までには準備終わらせておいてね
白菊 天音
白菊 天音
はぁい
私がそう言うと、いつの間に帰る準備が終わったのか、お母さんがバッグを手に持った。
秀、帰るわよ。じゃあ天音、また明日〜!
白菊 秀
白菊 秀
はいよ。また明日な、天音
白菊 天音
白菊 天音
うん!また明日!
そして扉が閉まる。

さっきまで賑やかだった病室が静かになって、病室が急に大きく感じるようになった。
白菊 天音
白菊 天音
わりと田舎だから病室余るんだろうなぁ
ポツリと呟いたその声が病室に響いて、また少し寂しくなる。


早く明日になぁれ。
そう願って目を閉じた。

プリ小説オーディオドラマ