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第1話

帰る道
62
2022/11/12 03:20
ぱらぱら。はらはら。

何もかも。全てが、崩れてゆく。


ぱらぱら。はらはら。

それはそれは綺麗に、崩れてゆく。


ぱらぱら。はらはら。

ぱらぱら。はらはら。

想像していた消滅おわりからは程遠いあまりにも綺麗な崩壊に、どうしてか胸が詰まった。


ぱらぱら。はらはら。

この世界の消滅おわりを祝福するように、家も、学校も、自転車も、お気に入りのカメラも、私たちでさえも、全てが欠片になってゆっくりと失われていく。
「天音」
天音。私の名前。みんなが呼んでくれていた、大切な名前。
「行くぞ。アイツらが待ってる」
そうだね。でもどうしてだろう。動くことができない。歩き出せない。
「涙拭け。最後くらい笑ってろ」
「…泣いてなんか、ないよ」
「嘘つけ。視界滲んで俺のこと見えないくせに」
だって、仕方ないじゃん。
「違うよ、これは」
あと少しでお別れなんて、そんなの。
「これは…」
雨だよ、だなんて強がることすらできない。みんなきっと最後は笑うだろうに。私だけが、この世界に囚われたままだった。
「大丈夫」
そうかもしれない。でも、これからの自分を信じることがどうしてもできない。
「大丈夫だ。俺がお前を信じる」





ぱらぱら。はらはら。
欠片になって、崩れて、上へそっと消えてゆく。
それはそれは綺麗に、確実に、青い空へと溶けてゆく。




「だからお前は、お前を信じる俺を信じろ」

はらり、と、指先の感覚がなくなって、痛くもないのに、ゆっくりと命が零れた。

「…うん」





それは、ある夏の日。

空は憎たらしい程に青く青く澄み渡っている。

蝉の声はもう聞こえない。

ここらでは珍しい向日葵が太陽を見つめて静かに死んでゆく。



生きるように死んでいた私たちの世界。


そんな世界が、今。

終わりを告げる。

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