ぱらぱら。はらはら。
何もかも。全てが、崩れてゆく。
ぱらぱら。はらはら。
それはそれは綺麗に、崩れてゆく。
ぱらぱら。はらはら。
ぱらぱら。はらはら。
想像していた消滅からは程遠いあまりにも綺麗な崩壊に、どうしてか胸が詰まった。
ぱらぱら。はらはら。
この世界の消滅を祝福するように、家も、学校も、自転車も、お気に入りのカメラも、私たちでさえも、全てが欠片になってゆっくりと失われていく。
「天音」
天音。私の名前。みんなが呼んでくれていた、大切な名前。
「行くぞ。アイツらが待ってる」
そうだね。でもどうしてだろう。動くことができない。歩き出せない。
「涙拭け。最後くらい笑ってろ」
「…泣いてなんか、ないよ」
「嘘つけ。視界滲んで俺のこと見えないくせに」
だって、仕方ないじゃん。
「違うよ、これは」
あと少しでお別れなんて、そんなの。
「これは…」
雨だよ、だなんて強がることすらできない。みんなきっと最後は笑うだろうに。私だけが、この世界に囚われたままだった。
「大丈夫」
そうかもしれない。でも、これからの自分を信じることがどうしてもできない。
「大丈夫だ。俺がお前を信じる」
ぱらぱら。はらはら。
欠片になって、崩れて、上へそっと消えてゆく。
それはそれは綺麗に、確実に、青い空へと溶けてゆく。
「だからお前は、お前を信じる俺を信じろ」
はらり、と、指先の感覚がなくなって、痛くもないのに、ゆっくりと命が零れた。
「…うん」
それは、ある夏の日。
空は憎たらしい程に青く青く澄み渡っている。
蝉の声はもう聞こえない。
ここらでは珍しい向日葵が太陽を見つめて静かに死んでゆく。
生きるように死んでいた私たちの世界。
そんな世界が、今。
終わりを告げる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!