これまでもそうだったが、校門を出る頃には俺達の周りは遠巻きに取り巻きが沢山いた
気まずい
それが正直な答だった
戸惑う葵の手を掴み、一気に帰路を走る
向かってくる春風が心地よく、俺は何故走っているのかを忘れそうになった
暫く走って振り向くと、うちの高校の生徒はもう居ないようで、息を吐いた
葵は僅かに額に汗が滲んでいた
そりゃそうだろう、春といってももう充分暖かい、走れば暑いくらいだから
しかし
葵の額に滲む汗を"美しい"と思ってしまった俺の感覚は、春の陽気のせいなのだろうか
意外だった
今迄葵さんを朝も帰りも見た事がなかったから
まぁでも、部活に入っていたら朝練もあるし、それのせいなのかもしれない
やはり予想通りだった
確かに何度か入ろうとは思ったし、何回か入った
しかし、入ってからの"仲間"という煩わしさがどうも苦手で長くは続かなかったのだ
この子は何を言っているんだ?
今迄そんな事でカッコイイと言われた事の無かった俺は動揺しまくりだった
他の女子から言われたら吐き気がするだろう
しかし、彼女から言われると吐き気がしないのだ
むしろ暖かく柔らかい気持ちが浮かんでくる
この感情を他の人は何と言うのだろう
彼女は本当に嬉しそうに笑った
"純真無垢"とはこのことか
本当に眩しい…
幸せな帰り道だった
しかしその時間ももう終わる
……家についてしまったのだ……
そう言って彼女と別れようとすると、彼女はキラキラした瞳で俺と俺の家を交互に見つめた
そして一気に息を吸い込み、宝箱を発見したかの様なテンションで今度はこう言った
冗談だろ
そう思い、隣の家の表札を見ると
隣の家の表札は
"西川"だった
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。