そのまま本を借り、午後の授業を受けて帰宅する。
帰る前に屋上に寄ると、弁当箱が綺麗になって置いてあった。
それを回収してから、駅への道を歩いた。
イヤホンをつっこんで曲をかける。
すると同じネット活動者で仲良くなった双子の歌ってみたが流れてきて、思わず頬が緩んだ。
彼らは配信とゲーム実況で主に活動していて、たまにだが歌ってみたも出している。
普段は友達のような、兄弟のような…絡み方をする彼らだが、ゲームになると途端に背中を任せられるような相棒のように、お互いに信じあってプレーをするからそれが好きだと言う人も多い。
実際私もあの二人のそういう絡みは素敵だと思うし。
なんて考えながら駅に着き、本を読みながら電車を待つ。
すると、私のよく知る声が聞こえた。
足早にその場を離れる。
幸い、彼女たちはそんな私に気づくことなく話を続けていた。
ホームの端に行き、息をついた。
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数分もすると電車が来た。
そのまま乗ると、ちょうど座ってる例の双子を見つける。
私に気づいたのか、ふとスマホを見ていた2人が顔を上げて、手招きする。
そのまま、海斗くんの隣が空いてたので座ると、チラリと2人が目を合わせた。
不思議に思って2人の顔を見ると、「なんでもないよ笑」と言われ、そのまま深く追求することもできずにかざされたスマホに目を落とした。
見ると、かの有名な猫のアイコンの〇〇。さんの実況動画だった。
カラフルなステージで、たくさんのアバターが走っている。
障害物が出てきたりして少し難しそうだが、面白そうだし流行りそうだなとか思いながら動画を見る。
ちょうど1セット?終わって、再マッチングする画面で動画は止められた。
海斗くんに言われ、特に断る理由もない私は「いいよ」と返した。
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いつもの帰り道、梨々花がふと口を開いた。
疑問に思ってなかったわけじゃない。
私だって、疑問に思ってた。
けど理由が分かるから、なんて言うべきか困ってしまう。
するとまた梨々花が口を開いた。
なんとなく相槌を打つ。
私は、知っている。
何故あなたが私たちを避けるのか。
何故家だと何も言わないのか。
答えは簡単、
お父さんとお母さんに虐待されているから。
これを誰かに言おうなんて、そんなこと思ってない。
言ったところで何も出来ないし、酷くさせちゃうから。
だから私は、できるだけお母さん達を怒らせないようにすることしか出来ない。
けどきっと、あの子は自分で自分の未来を造ってしまうんだろう。
お姉ちゃんのはずの私に出来ることは、何も無い。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!