ふっと視線を下に下ろすと、彼が着ている制服が目に入った。
「あっ…同じ制服」
「うん。ここ、この高校の旧校舎なんだから、当たり前だよ」
意外と思ったことはストレートに言うらしい。
私は苦笑いを浮かべながら「えっと…何年生なの?」と続けて質問をすると、「2」という言葉が返ってきた。
どうりで見たことがないはずだ。
記憶力がない私でも、同じ学年の人なら名前は知らないとしても顔くらいは覚えている。
そうなると、1年生か2年生かだと思ったのだ。
「じゃあ、私先輩だね!3年生だから!」
なるべく明るく言うと、彼はすっと立ち上がって私の方を向いた。
「葵さん、授業、出なくていいの?3年生なんだったら、受験生のはずなのに」
彼がそういった途端、新校舎のチャイムが鳴ったのが聞こえた。
彼は、探りを入れるかのように、私の目をじっと見つめる。
その眼差しが、まるで心の中までも見透かしてしまいそうで、ほんの少し肩が震えた。
「そ、それは…いいのっ!」
私は返す言葉が見つからず、無理やり言い放った。
ーーそう。
今鳴ったのは、ちょうど午後の授業が始まるのを知らせるチャイム。
この学校の生徒なら、これが聞こえる前に席に着くのが普通だろう。
それなのに、私は席どころが教室にも行っていない。おまけに、新校舎ではなく、少し離れた旧校舎にいる。
これは普通ではない。ーーこの学校の生徒なら。
「それより、優くんだってこんな所にいちゃダメでしょ」
彼だって、本当なら今頃教室にいるはずだ。
さっき言っていた『逃げてきた』という言葉と関係があるのだろうか。
そう思って、私もすかさず反撃をする。
「僕は、いつものことだから」
それだけだった。私はあんなに焦ったのに、彼は当たり前かのように言う。
なんだかずるいと思った。
「優くん、いつもここにいるの?」
「うん」
「どうして?」
すると、彼は少し黙ってから、
「行きたくないから」
と言った。
「え…行きたくないからって…そんな簡単に…」
私は苦笑いを浮かべた。
「う〜ん」
「簡単では、なかったんだけどね」
「え…?」
私は頭にはてなマークを浮かべていると、当の本人はまたふっと笑った。
「僕、いじめられてるから」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。