太陽が上り、沈んだ。
また太陽が街を照らし、それは夜の闇に消え、代わりに月が出た。
小学校の時に理科で習った『太陽は東から上り、南の高いところを通り、西に沈みます』というフレーズを思い出し、昔を懐かしんだりしてみた。
あれから毎日のように空き教室に通っているけれど、正直、はじめの一日と何ら変化はない。
なんとなく彼の隣に行っては外を眺め、会話をしたり(私が一方的に話しかけているだけだが)、彼が昼食をとっているのを横目で見たりと、俗に言う『当たり前な毎日』を過ごしていた。
最近は恐ろしい程に食欲がなく、お昼時は暇を持て余しているのだが、無口な彼のおかげで特に気を遣わなくてもいいのが唯一の救いだった。この時だけは、彼の性格にも感謝だ。
「あのさ、あっち…行ってみない?」
太陽が教室の中をさんさんと照らす1時過ぎ。
いつもより遅めの昼食を食べ終わった彼に声をかけた。
「あっちって?」
「あっち」
指を指しながら言う私に、彼は少し顔を歪めた。
「え、新校舎?」
明らかに嫌がっているのが分かる。
私は、「うん」と短く返事をすると優くんの隣に座った。
「いや、だって、私もそろそろ授業受けた方がいいかな〜なんて」
なるべく不自然に見えないよう、頑張って笑顔をつくる。
「そんなの、1人で行けばいいじゃん」
「えっ、と…勇気出なくて」
「もしかして、前に話したこと気にしてるの?」
前に話したこと?と私が復唱する。
「…僕がいじめられてるってこと」
う、さすが優くん。バレたか。
私が秒殺され戸惑っている様子を見て、彼は「やっぱり」と軽くため息をつく。
「どうせ、いじめをなんとかしようとか思ってたんでしょ」
…はい。そうです。その通りです。
まさかこんなはやく図星を刺されるとは思っていなかった。
私は、思わず体を縮こめる。
実は、彼へのいじめを解決するべく、それとなく理由をつけて新校舎へ行こうと思っていたのだ。
しかし、早々に嘘を見破られてしまった。
当然、これで計画通り進むはずがないのは分かってはいたものの、実際起こるとどうしようもなくなってしまう。
しかし、ここで引き下がるのも情けない。
かといって、感の鋭い彼に嘘を突き通すのも不可能な気がする。
「そ、そうだよ?私は優くんの力になりたいだけ。行くだけだから、一緒にいこうよ」
ここは正直に言おうと決心した私は、しっかりと彼の目を見て話す。
しかし、なかなか頑固な彼には通用しないらしく、
「…行かない」
と返されてしまった。
「…なんで行きたくないの?」
「…じゃあ、逆に聞くけど、なんで行く必要があるの?」
「え…なんでって、そりゃあ優くんが学校ちゃんと行けるようにするためでしょ。優くんだって、勉強しないとだと思うし」
私はなんとかしどろもどろに口を開く。
すると数秒後、私の思いの圧が伝わったのか、不意に目を逸らしたかと思うと、「好きにすれば」と折れてくれた。
よし、と心の中でガッツポーズを決める。
「じゃ、さっそくいこ!」
「え、今から?」
「うん。善は急げだよ」
ガラッとドアを開け、旧校舎を後にした。
なんだかんだ言いながらちゃんと着いてくる彼に満足しながら、異様なくらいの心の緊張は無視して、一歩一歩前に進む。
そして、久しぶりの新校舎に足を踏み入れた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。