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第9話

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2021/04/02 07:39
日がすっかり沈み辺りが暗くなっても、家には帰らなかった。

全く人気の感じられない夜の学校。
私は、ひとり階段を上った。

まるで幽霊の一つや二つ出てきそうな雰囲気だ。踊り場の薄汚れた窓から月明かりが差し込んできて、その周辺を照らしている。

結局、あの後は屋上で別れたけれど、特にすることもなかったので、今ここにいる。

「ふぅ〜」

やっと3階に着き、一息ついた。
久しぶりに階段を上ったので、なんだかとても疲れてしまった。前より体力が落ちた気がする。

「ふぅ…」

もう一度深く息を吐き、上がった息を整えた。

前へ進んでも、忍び足で歩いているわけでもないのに、私の足音は怖いくらい無音だった。

しばらく進むと、教室が見えてきた。

3年生ーーつまり、私の教室があるフロア。

今日優くんと新校舎へ来たので、私も久しぶりにここへこようと思ったのだ。

1番奥にある私の教室の前まで来たところで、ドアに手をかけ、ゆっくりとそれを横に動かした。

目に飛び込んできたのは、あの懐かしい風景。

ーーあぁ。

懐かしい、とっても。

私はおもむろに足を動かし、私の席を見つけて座る。

この席に座るのは、いつぶりだろうか。
最後に席に座ったのはーー6月頃だったような。
そう考えると、あまり時が経っていないことに苦笑する。
ほんの1、2週間前。まだ1ヶ月も経っていなかった。もうとっくに半年以上来ていないような気がしていたのに。
自分が感じている時間と実際の時間にこんなにも差があるなんて、自分で自分にびっくりする。しばらくぼんやりとこの地に佇んでいるうちに、時間の感覚もなくなってしまった。

机のひんやりとした感触を手で感じながら、教室の中をぐるっと見渡す。

いわゆるヒロイン席と言われるこの窓側の席。

ここからだとクラスの様子は見渡せるし、黒板も見えづらいわけではないし、なにより窓から外の景色を見ることができてしまうから、よく友達に羨ましがられていたっけ。

今ではその景色も前とは違ったように見えるけれど。

考えれば考えるほど懐かしさが込み上げてきて、なんだか泣きたくなった。

そんなに時間は経っていないのに、まるで自分だけ取り残されてしまっているみたいでーー

なんだろう、この気持ちは。
分かっているはずなのに、形容しがたい何かがあった。

私はしばらくの間思い出に浸り、その景色を目に焼き付けた後、静かに教室を出た。

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