日がすっかり沈み辺りが暗くなっても、家には帰らなかった。
全く人気の感じられない夜の学校。
私は、ひとり階段を上った。
まるで幽霊の一つや二つ出てきそうな雰囲気だ。踊り場の薄汚れた窓から月明かりが差し込んできて、その周辺を照らしている。
結局、あの後は屋上で別れたけれど、特にすることもなかったので、今ここにいる。
「ふぅ〜」
やっと3階に着き、一息ついた。
久しぶりに階段を上ったので、なんだかとても疲れてしまった。前より体力が落ちた気がする。
「ふぅ…」
もう一度深く息を吐き、上がった息を整えた。
前へ進んでも、忍び足で歩いているわけでもないのに、私の足音は怖いくらい無音だった。
しばらく進むと、教室が見えてきた。
3年生ーーつまり、私の教室があるフロア。
今日優くんと新校舎へ来たので、私も久しぶりにここへこようと思ったのだ。
1番奥にある私の教室の前まで来たところで、ドアに手をかけ、ゆっくりとそれを横に動かした。
目に飛び込んできたのは、あの懐かしい風景。
ーーあぁ。
懐かしい、とっても。
私はおもむろに足を動かし、私の席を見つけて座る。
この席に座るのは、いつぶりだろうか。
最後に席に座ったのはーー6月頃だったような。
そう考えると、あまり時が経っていないことに苦笑する。
ほんの1、2週間前。まだ1ヶ月も経っていなかった。もうとっくに半年以上来ていないような気がしていたのに。
自分が感じている時間と実際の時間にこんなにも差があるなんて、自分で自分にびっくりする。しばらくぼんやりとこの地に佇んでいるうちに、時間の感覚もなくなってしまった。
机のひんやりとした感触を手で感じながら、教室の中をぐるっと見渡す。
いわゆるヒロイン席と言われるこの窓側の席。
ここからだとクラスの様子は見渡せるし、黒板も見えづらいわけではないし、なにより窓から外の景色を見ることができてしまうから、よく友達に羨ましがられていたっけ。
今ではその景色も前とは違ったように見えるけれど。
考えれば考えるほど懐かしさが込み上げてきて、なんだか泣きたくなった。
そんなに時間は経っていないのに、まるで自分だけ取り残されてしまっているみたいでーー
なんだろう、この気持ちは。
分かっているはずなのに、形容しがたい何かがあった。
私はしばらくの間思い出に浸り、その景色を目に焼き付けた後、静かに教室を出た。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。