どうだ、流石の名探偵もこればっかりは分るまいと、心の中で嘲りながら、三郎はこんなことまで云って見るのでした。
それが彼には愉快で堪らないのです。
三郎は寧ろ得々として答えました。
それから、二人は遠藤の部屋へ行って見ることになりました。その時、廊下を先頭になって歩きながら三郎はふと妙な感じにうたれたことです。
ニヤニヤと笑い相になるのを、彼はやっとの事で堪えました。三郎は、生涯の中で、恐らく此時程得意を感じたことはありますまい。
自分自身にそんな掛け声でもしてやり度い程、水際立った悪党ぶりでした。
遠藤の友達――それは北村といって、遠藤が失恋していたという証言をした男です。――は、明智の名前をよく知っていて、快く遠藤の部屋を開けて呉れました。遠藤の父親が、国許から出て来て、仮葬を済ませたのが、やっと今日の午後のことで、部屋の中には、彼の持物が、まだ荷造りもせず、置いてあるのです。
遠藤の変死が発見されたのは、北村が会社へ出勤したあとだった由で、発見の刹那の有様はよく知らない様でしたが、人から聞いた事などを綜合して、彼は可成詳しく説明して呉れました。三郎もそれについて、さも局外者らしく、喋々と噂話などを述べ立てるのでした。
明智は二人の説明を聞きながら、如何にも玄人らしい目くばりで、部屋の中をあちらこちらと見廻していましたが、ふと机の上に置いてあった目覚し時計に気附くと、何を思ったのか、長い間それを眺めているのです。多分、その珍奇な装飾が彼の目を惹いたのかも知れません。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。