「ところでご飯はどうする?」
ヒヤヒヤする運転をしながら、一宮 生が私に訊ねる。
「すみません、車に酔ったみたいで気持ち悪くて」
「そっか、じゃあ焼肉でいいね?」
「話聞いてます?」
なんで気持ち悪いって言って焼肉になるのか心底理解が出来ない。
話している間に車は小牧市に突入した。私の苗字と同じ名前の市だ。
「ここから犬山方面に向かうと、左手にあるんだよ、焼肉屋が」
「それまでにラーメン屋も沢山あるでしょう、どっちにしても食べられませんけど」
「仕方ないなぁ、じゃあ間をとって油そば食べる?」
「なんの間もとれてませんが?」
くだらない会話を繰り広げていると、気付けば酔いは多少マシになり、ちょっとくらいならご飯が食べられるのではないかな?と思い始める。
とはいえ流石に焼肉もラーメンも油そばも無理だけれど。
「私が記憶している場所の焼肉屋さんなら、その近くにうどん屋さんもありますね?」
「あぁ、あるね」
「そこならいいですよ、それか別々に食べます?」
「うーん、じゃあうどん屋にしよう、仕方ない」
よし、なんとか食べれないでただ眺めるだけの時間は回避出来た。
「ところで桃太郎神社に、検証?って言ってましたけど、具体的に何しに行くんですか?」
「別に?君の写真をいっぱい撮るだけだよ」
は?意味がわからない。
「は?意味がわからない」
「心の声が口に出てるよアイちゃん。いやね、噂話があるのよ」
「噂ですか」
「そうそう。とはいえ現物があるわけではないんだけどね。夜に桃太郎神社で写真を撮ると写るんだってさ」
神社で何が映るというのだろう。ちゃんと管理されている以上よほど霊がうろつくこともないのだけれど。
「霊じゃないらしいのよこれが」
「え?」
「僕が聞いたのは本当にどこから流れた噂かまで辿れないほどに遠い発生源だから、尾びれがついてる可能性が高いんだけどね?……鬼がうつるんだと」
そんなバカな。桃太郎神社に鬼って。
「まぁ桃太郎神社なんてついてるけど、犬山のあれの場合有り得るからねぇ……おっと、ここを左で……っと」
「それってどういう……」
「とりあえずご飯食べてからにしようよ、深夜まで時間はたっぷりあるんだしさ」
はぐらかしているようにも感じるが、実際のところ彼にとってはそこまで重要な情報ではないのだろう。
私自身もあとから聞けるならとその場ではしつこく聞くこともせず、駐車スペースにバックで入れる彼のニヤけた顔を眺めた。
「よし、1発!」
誇らしげな顔が癪に障った。
「これだけ空いてたら普通1発で入るんですよ……私が運転するんで、お願いだから二度と助手席に乗せないでください」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。