『お前なんかいらない』
『あんたなんて産まなきゃよかった』
『早く消えてくれ』
そうして私は家を出た。
現在12月17日午後8時。
私は人生初の家出をした。
理由は単純。虐待といじめ。
私は学校でのいじめが原因で不登校になった。
最初のうちは両親とも私に勉強を教えてくれたりと、よく面倒を見てくれた。
だけど仕事が上手くいかなくなり、
夫婦喧嘩が増えた。
それがエスカレートし、今度は矛先が
こちらへ向いたのだ。
生憎制服以外は身にまとっていない為、とても寒い。
カバンの中にはスマホ、財布、そして
___カッターナイフ。
もちろん容易に使うつもりはない。
護身用ってやつだ。
あそこなら多分、そんなに人もいないだろうし、
1晩くらい野宿でなんとかなるだろう。
本当はネカフェでも行きたいところだが、
お金は限られてる。
できる限り節約しなくては。
思ったより寒いな…
川沿いなんて来るべきじゃなかったか…
今何時だろ…と、スマホの電源を入れると
不在着信が何件も入っていた。
家、学校、軽く20件は超えている。
そう思い、川へスマホを投げようとした。
その時だった。
ティロリン♪
『今日は23時!来てね!』
こんな最悪な境遇でも、今日まで生きてこられたのは他でもない、通知の主である『坂田さん』のおかげだ。
以前、ふと動画サイトを開くと偶然おすすめに出てきた彼__坂田さん。
優しい歌声は、空っぽの私の心に
刺さるには十分だった。
これじゃあ配信どころか、
しばらく動画も見れないなぁ…
___瞬間、時が止まった気がした。
振り返った先にいたのは、心配そうな顔で
赤毛を揺らす『彼』だった。
なんで__坂田さんがここにいるの?
こんな素性の知れない高校生なんて、
ほっとけばいいのに。
きっと彼は動画の通り、優しいのだろう、とても。
……でも、油断できない。
今までだってそうだ。
優しいフリをして近付いて、利用するだけしたら
あとは捨てられる。
人間なんて、所詮そんなもん。
いくら大好きな彼であっても……
……だから
……ごめんなさい。
こんな態度しかとれないこと、
どうか許してほしい。
もちろん警察なんてはったりだ。
彼の言う通り、呼べば困るのはこちらも同じ。
そう言って1歩、また1歩と近付いてくる。
私は咄嗟にカッターナイフを取り出し、
彼に向けた。
すると流石に驚いたのか、一瞬動きが止まった。
が、ほんとに一瞬。
気にせずズカズカとこちらに向かってくる。
…どういうこと?
ますます意味がわからない。
養う?坂田さんが?私を?
何言ってんだ。
…たしかに、困ってた。
困ってたけど…
いや、それもだけど、そこじゃない()
え…()
ケンちゃんのキーホルダー。
私にとってお守りみたいな物。
そういえばずっと付けたままだったな…。
あ、さすがにそれはしまってな?と言いながら
カッターを取り、私のカバンにしまう。
そしてそのまま私の手を引いていく彼。
その力は決して強くも乱暴でもなかった、
なのに、何故だろう。
___振り解けなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。