第9話

第2幕 3つの葬送曲 第7話
84
2019/10/04 14:59
メアリー
メアリー
とっても素敵ですわ・・・!


メアリーは両の手を胸の前でぎゅっと握りながら
時折「まあ!」だとか「許せない!」だとか
相槌を打ちながら夢中で話を聞いていた。



「伯爵家の御息女」である彼女は、
人前でこそ、そのように振る舞ってはいるが
とはいえ、中身は18歳の「少女」である。




そしてその「少女」らしい一面を見て、
レストレードは、ふと気づいた。




何故だか思い出せない ・ ・ ・ ・ ・ ・のだが、
彼女のその「普通の少女らしい」姿を見て、
安堵する自分がいる。


初めて会った相手に?
それともどこかで会ったことがあるのだろうか・・・?


「はて」と考え込むレストレードであったが、
楽しそうに話すメアリーのその笑顔を見たら、
そんなことはどうでもよくなって、
彼もつい顔を綻ばせ・・・


アラン
アラン
・・・。
レストレード
レストレード
・・・。




・・・そうだったのだが、
目の前のアランを見て
すぐに頬の筋肉は下がった。








レストレード
「(一体何者なんだこの男・・・)」






サングラスのせいで、
この大男がなにを考えているのか読み取ることができないし、彼の瞳がいまどこを向いているのかもわからない。

ただこの男に、先程からずっと見つめられているような気がしてならないのだ。



そしてその視線の中に、
今にでも拳を振り上げてきそうな殺気が感じられて、レストレードの額は先程から汗が溜まりっぱなしである。


しかしながら、
メアリーはさておき。

エミもこの大男を気にも止めていない。

存外、女の方が肝が座っているのかもしれない・・・と、レストレードは思いながら、
なるべくこの大男を視界に入れないようにしつつ、
さらに盛り上がる女性たちの話に耳を傾けた。







メアリー
メアリー
ハーヴェスト男爵様は、
日本の言葉は話したりできますの?
エミ夫人
エミ夫人
ええ。読み書きもとても上手です。

当時、言葉を交わせる相手ができて、本当に嬉しくて。
メアリー
メアリー
それじゃあもう、運命のお相手でしたのね!
エミ夫人
エミ夫人
私も・・・そう信じてます。


そう言いながらエミは
左手の薬指に光る指輪に目を落とす。


指先で愛おしそうに指輪に触れる彼女の表情は
その所作と不釣り合いなほど不安げなものだった。
エミ夫人
エミ夫人
ですから、
あの人にもしものことがあったらと思うと・・・
メアリー
メアリー
奥様・・・















(カラカラカラ...)







まるで会話を途切れさせるように
心地いい車輪の音が、なんの前触れもなく止む。


アラン
アラン
ご夫人、御屋敷ニ着いたヨウデス。
エミ夫人
エミ夫人
ありがとうございます。



「ドウゾ」と手を差し出し、
エミ夫人が馬車から降りるのを
手助けしてるアランのその様子を見れば、確かに「業者」らしく見える・・・などとレストレードが思っていると、あっという間に馬車が再び動き出す準備をし始めた。



エミ夫人
エミ夫人
メアリーさん、
送っていただきありがとうございました。
では、失礼いたします。
メアリー
メアリー
・・・・・奥様!


ハーヴェスト家の立派な門を潜ろうとした彼女の背を、
メアリーが呼び止める。



その声に振り向いたエミは
「どうしたのだろう」とい顔をしていた。



メアリーは、
馬車から落ちそうになるくらい身を乗り出して、
メアリー
メアリー
あのっ!

私も、楽譜の解読・・・
手伝わせていただけないでしょうか?
エミ夫人
エミ夫人
えっ?
メアリー
メアリー
先程のお話をお聞きして!

おふたりのために、
なにか力になりたいと思って・・・。
エミ夫人
エミ夫人
・・・ぜひよろしくお願いします!
そう優しく微笑むと、エミは深く頭を下げた。
メアリー
メアリー
!!

ありがとうございます!
おまかせください!




メアリーのその言葉に、
エミはもう一度深く頭を下げてから、
屋敷の門の奥へと消えていった。






















つづく

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