メアリーは両の手を胸の前でぎゅっと握りながら
時折「まあ!」だとか「許せない!」だとか
相槌を打ちながら夢中で話を聞いていた。
「伯爵家の御息女」である彼女は、
人前でこそ、そのように振る舞ってはいるが
とはいえ、中身は18歳の「少女」である。
そしてその「少女」らしい一面を見て、
レストレードは、ふと気づいた。
何故だか思い出せないのだが、
彼女のその「普通の少女らしい」姿を見て、
安堵する自分がいる。
初めて会った相手に?
それともどこかで会ったことがあるのだろうか・・・?
「はて」と考え込むレストレードであったが、
楽しそうに話すメアリーのその笑顔を見たら、
そんなことはどうでもよくなって、
彼もつい顔を綻ばせ・・・
・・・そうだったのだが、
目の前のアランを見て
すぐに頬の筋肉は下がった。
レストレード
「(一体何者なんだこの男・・・)」
サングラスのせいで、
この大男がなにを考えているのか読み取ることができないし、彼の瞳がいまどこを向いているのかもわからない。
ただこの男に、先程からずっと見つめられているような気がしてならないのだ。
そしてその視線の中に、
今にでも拳を振り上げてきそうな殺気が感じられて、レストレードの額は先程から汗が溜まりっぱなしである。
しかしながら、
メアリーはさておき。
エミもこの大男を気にも止めていない。
存外、女の方が肝が座っているのかもしれない・・・と、レストレードは思いながら、
なるべくこの大男を視界に入れないようにしつつ、
さらに盛り上がる女性たちの話に耳を傾けた。
そう言いながらエミは
左手の薬指に光る指輪に目を落とす。
指先で愛おしそうに指輪に触れる彼女の表情は
その所作と不釣り合いなほど不安げなものだった。
(カラカラカラ...)
まるで会話を途切れさせるように
心地いい車輪の音が、なんの前触れもなく止む。
「ドウゾ」と手を差し出し、
エミ夫人が馬車から降りるのを
手助けしてるアランのその様子を見れば、確かに「業者」らしく見える・・・などとレストレードが思っていると、あっという間に馬車が再び動き出す準備をし始めた。
ハーヴェスト家の立派な門を潜ろうとした彼女の背を、
メアリーが呼び止める。
その声に振り向いたエミは
「どうしたのだろう」とい顔をしていた。
メアリーは、
馬車から落ちそうになるくらい身を乗り出して、
そう優しく微笑むと、エミは深く頭を下げた。
メアリーのその言葉に、
エミはもう一度深く頭を下げてから、
屋敷の門の奥へと消えていった。
つづく
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。