第25話

その代わりにさ
806
2023/11/19 09:00


昼休みを終え、四〜六限を済ますと放課後だ。


今日は予定も無いしボーダーにでも寄ろうかな。 と言っても寮があるのはボーダー内なので「寄る」という表現は妙な感じがするが。

まあ細かいことを気にしたって仕方ない。
帰ろう帰ろう〜と鞄を持ち上げれば。






「おい、お前」






突然呼び止められて顔を上げる。 するとそこには見知らぬ男の人が居た。







『えっと……どちら様?』

「ボーダーB級隊員の根岸だ。」

『あっ、ボーダーの人なんですね。』







B級ってことは一応正隊員の人だ。

で、覚えている限りこのクラスに根岸という人は居ないから他クラスの人か、他学年の人か…。


しかし履いている上履きの色が同じところを見るに、同学年ではあるのだろう。

『何の用ですか?』と訊ねてみる。 そうすると根岸くんの身体がわなわなと震え始めた。







「お前……入隊初日でB級に飛び級したらしいな。」

『あ、ハイ』

「しかも個人戦で太刀川さんともほぼ互角だったとか」

『いや互角ではないです』

「いいんだ!謙遜するな!」







本当に謙遜ではないんだが……信じてくれる様子がない。 というかこちらの話を聞く気がそんなに無い気がする。


現に彼は私の顔をちらりとも見ず、ぺらぺら何かを捲し立てていた。







「俺は……っ!!お前が羨ましい!!
わざわざ迅さんにスカウトされる才能を持ち合わせ、尚且つ実力も見合っている!! 同じB級だがはっきり言ってレベルが違いすぎる!!
頼む!!俺に強くなる秘訣を教えてくれ!!」

『えぇ…? そんなこと言われてもわかんないよ』

「そう言わずに!! 一個でいいんだ!!」

『いや本当にわかんな、』

「頼む!!!」







ついに根岸くんは私の肩に掴みかかってきた。

ね、熱意が強すぎる。 ボーダーにこんなに熱血な人が居たのか。


いや別に私が今まで会ってきた人が不真面目なちゃらんぽらんだったという印象は全く抱かないが。

みんな真剣にやりつつも、基本的には楽しんでボーダー活動をしている雰囲気があった気がする。 故に根岸くんみたいな人は初めて見るのだ。

具体的には「ボーダーに命賭けてるんです!」みたいな感じの人。


どうしたらそこまで追い詰められるのだろう。家族を人質にとられてたりする?


考えている内に、私の肩を掴む根岸くんの手の力が強まった。







「頼む!!教えてくれ!!
何ならここで一戦手合わせして直接……」


『えっ!?待って!!ここ学校だしダメでしょ!!』







必死に抵抗していると、右足にガツンと何かがぶつかった。
その拍子に私の身体は大きくよろける。


驚いたように目を丸くする根岸くんと、その後ろの教室の景色。
2つがゆっくり流れていく視界の中、ようやく私は自分が転びそうになっている事実に気付いた。


終わった。 これ、頭打つかも___


しかし、崩れる身体はぴたりと止まった。






「……っと、あぶな。」






耳元で聞こえたそんな声にそっと目を開ける。

なんと、謎の金髪男子が私の身体を支えてくれていた。


あっ。この人知ってる。おそらくだが、朝に私を見つめていた人だ。
人懐っこそうな雰囲気が特徴的だったのでよく覚えている。

名前は確か……出水公平くん。


出水くんは「忘れ物したわ」と机を漁りつつ、狼狽えている根岸くんへ言った。







「根岸さぁ、部隊に解雇されたからってそんな焦るなよ。 お前の実力が足りなかったことだけが問題じゃないんだから。」


「!! じゃあどこがダメだったんだ!!」


「強いて言うならそういうところだろ。暑苦しすぎ。」


「なっっ……!?!?」







いや言い過ぎでは?? 転ばされそうになった私が言うのもアレだが、若干哀れみの念が現れてしまう。

すると出水くんがくるりとこちらを向いた。







「あなた……だっけ? 気を付けろよ。スカウト組で飛び級でB級昇格とか妬む奴は相当妬むから。 油断してると食われるぞ。」


『な、なるほど……?』


「あっ、その反応わかってないな?」







図星で言葉に詰まる。が、そんな私に彼は続けた。







「まぁ好きにしたらいいけどさ。 早くボーダーに慣れないと浮くぞ?根岸みたいにな。」

「おい、それはどういう意味だ!?」







いやだから言い過ぎ。


「早くボーダーに慣れる」か。 そうしたい気持ちは山々なのだが。 そもそも私はボーダーという組織を知ったのも最近であり、他の人と比べて知らないことも多い。

よって適応できるイメージがイマイチ沸かないのだ。


3年、4年経ってもずっと気分は新参者のままかもしれない。 それは怖すぎる。


そうして悩み込んでいれば、出水くんが顔を覗き込んできた。 整っておりそれでいて可愛らしいその顔立ちに胸が鳴る。

出水くんは私へ言った。







「お前が良ければ教えてやろうか? ボーダーのこと。」

『え!?いいんですか?お願いします!』







確かに誰かに教わるのが一番早いかもしれない。私はそう考えた。


二つ返事で了承すると、出水くんは「いいよ。その代わりにさ」と言葉を続ける。
軽やかな彼の足音が近付いて私の目の前で止まった。


その瞳は何を考えているのか明確にはわからなかった。 が、やけに楽しそうだということだけはハッキリとわかる。






「付き合ってよ。あなた。」






そう言って、私の手は出水くんに取られたのだった。




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