第27話

仕方ないよね
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2023/12/15 13:12


「おーおー、いずみんとあなたちゃん。こんにちは。」






国近さんはパタパタと駆け寄ってきて、柔らかい笑みを浮かべた。







「この間ぶりだね。元気してた?
……って、怪我してるから元気じゃないか。」


『いや、そんな酷くないので』


「でもコレ打撲してるよー。痛いでしょ?」







国近さんは冷静に私の怪我を診た後に、ポケットを漁り始めた。 次に彼女のポケットからは保健室の鍵らしきものが出てくる。

なぜ一生徒がそれを持っているのか不思議に思えば、その答えはすぐにわかった。







「柚宇さんは保健委員なんだよ。 今日は養護の先生居ないから、柚宇さんに保健室開けてもらおうと思って。」


『なるほど…! 保健委員なんですね!』


「そうだよ〜。一応手当てもしてあげられるから、とりあえず移動しよっか。」







その言葉に頷き、私たちは保健室へ歩きだした。








「運んでやろうか?」などという出水くんの言葉は丁寧にお断りさせていただいた。 これ以上自意識過剰女になりたくないからである。


そもそもこんなイケメンに身体を持ち上げられることがギルティー、日本国憲法における大罪である。

私が総理大臣であれば「身分わきまえろ法」とかで独房にぶち込んでしまいそうだ。


そんなこんなで保健室に辿り着く。

ガチャリと鍵を開けた国近さんに続くと、清潔感と微かな医薬品の香りに包まれた部屋が視界に広がった。







「それじゃああなたちゃんはそこ座って。」


『はい。』


「柚宇さん柚宇さん、俺は?」


「いずみんは倉庫からマスク取ってきてよ。無くなりそうで困ってるんだ。」


「えぇ!? パシリじゃないすか!!」


「先輩の言うことが聞けんのか〜?」


「ちぇっ……」







唇を尖らせながら保健室を出る出水くん。
完全に手懐けられている雰囲気がしたのは気の所為か。


そんな後輩を上手いこと使った国近さんは、のんびりと氷嚢を持ち出していた。 そしてその氷嚢を私の脚に当てる。

ひんやりとした感覚に驚き少しだけ肩が跳ねた。






「あなたちゃんさ、」






国近さんの声が部屋に響く。

私は氷嚢の冷たさにじっと耐えながら言葉の続きを待った。
一、二拍置いて、国近さんは口を開く。







「隠岐のこと好きなの?」

『………えっ』







我ながら素っ頓狂な声が出たと思う。 そして一気に顔が熱くなる感覚がした。

ちょっと!!私に孝二の話題はタブーって知らないの!? なんて、ほとんど初対面の国近さんに言っても仕方ない。


熱くなった顔を冷ましながら答える。







『……好きじゃないです』


「またまた〜」


『ほんとですよ! っていうかからかうのやめてください…!』







必死にそう叫ぶと、国近さんはようやく戯言を吐くのを辞めてくれた。
しかしその表情は依然とニヤついている。


純情な乙女心を弄ぶなど同じ乙女としてあるまじき行為ではないだろうか!?

もう一言くらい文句を言おうとした時、国近さんの目がふっと伏せる。
その顔付きはどこか悲しそうに見えた。






「あなたちゃんならいずみんを楽にしてくれると思ったけど……仕方ないよね。」






___どういう意味ですか。

そう問おうとした瞬間、保健室の扉が音を立てて開いた。




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