第23話

いいなあ
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2023/11/05 11:00


カゲさんは私を職員室まで送り届けると「じゃあな」と去っていった。


優しくてかっこいいなあの人。
あんなにかっこいいのに遅刻してるんだよ? もったいなさすぎない?

まあ彼が遅刻していなければ私も職員室に辿り着けなかったかもしれないわけだし……そこは水に流そうか。


そんな風に考えていると、私のもとへ1人の男性が歩いてきた。







「あ、君があなたの名字さんだよね? 僕は前田。
あなたの名字さんの所属する2年B組の担任だよ。」

『あ、どうも!』

「とりあえず教室に行こうか。おいで。」







前田先生に案内されるがまま歩き出し、3階にてようやく2年生の教室が見えてきた。

その中で2番目に並ぶ B組の教室の戸を先生がガラリと開けた。






「みんな席について! 今日は転入生を紹介するよ!」






途端にみんなの視線が私へ集中する。

「自己紹介して」という言葉に促され、すぅっと息を吸った。






『あなたの名字あなたです。大阪から来ました。
仲良くしてくれると嬉しいです。』






噛みそうになって若干舌っ足らずだが言い切れた。

拍手、たまに「よろしくー!」などと声をかけてもらいながら、私はいそいそ指定された席に着く。


隣の席には優しそうな女の子が座っていた。ちらりと一瞥すると優しく微笑まれる。 ア、好き。







「よろしくね。あなたちゃんって呼んでいい?」

『うん!私は何て呼べばいい?』

吹乃ふきのって呼んで。」







そうして「よろしく!」とお互いに頭を下げ合う。
その時、何処からか視線を感じた気がした。

出どころである窓際の方の席を見ると、1人の男の子が私を見つめている。
彼は私と目が合うなり人懐っこくて優しそうな笑みを向けてきた。 


どうしたんだろう。何か私に用があるのかな?


とはいえ知らない人だったのでスルーして、HR、一限〜四限を卒なく熟した。







授業の進度が大阪の方とほぼ同じで良かった。おかげで授業にも大きく遅れをとることは無さそう。

そう思いながら弁当を取り出した。


さて、昼休みが始まったわけだが、誰と弁当を食べようか……。
まあ隣の席の吹乃ちゃんのグループにでも混ぜてもらうのが無難かな。






「あなたっ!」






え。 バッと後ろを振り向くと、そこにはニコニコとこちらを見つめる孝二が居た。

コイツ、なぜここに!? そういえば同じ学校だったか!? だったかも!!!







「あなたやっと見つけた! ココ通い始めたって聞いてめっちゃ探してたわ。」

『そうなんだ…。孝二はクラスどこ?』

「A! 隣やで」

『うわあ、無駄に近い』

「失礼やな〜無駄やないやろ。」







そうして話していると後ろからザワザワと声がした。
次の瞬間、数名の女子が私と孝二に詰め寄ってくる。







「隠岐!あなたの名字さんと知り合いなの?」

「どういう関係?!」







あー…。こういうの懐かしいなぁ。

孝二はモテるから大阪に居る時もこうやって女子に言い寄られてた記憶がある。 それは高校でも健在なようで、何とも言えない。


私は孝二が余計なことを言う前に『大阪で同じ中学だったんだ』とだけ伝えた。







「そうだったんだ! あなたの名字さんも大阪出身って言ってたもんね!」

「ちなみに付き合っては……」

『いないよ!腐れ縁!』

「えぇ〜?俺はあなたのこと好k、」

『ははは!!! 孝二は黙って!!!』







何とか話題を反らして誤魔化す。
あっっぶない本当にこの女子たちに目の敵にされるところだった。

今は女子たちと孝二が楽しげに話している。







「隠岐、今度遊ばない?」

「どうやろ…当分はボーダーで忙しいかもなぁ。」

「そっかあ。私もボーダー入ろっかな!」

「おっ、ええんちゃう? トライしてみ。」







___あぁ、いいなあ。

この子たちと孝二には、三門の同じ高校で過ごした特別な空気感があるように感じる。 それに可愛くておしゃれで高校生って感じもする。

きっと孝二にはこういう子が合ってるんだろうなあ。


私なんて卑屈だし力強くてゴリラみたいだし、孝二には全然女の子っぽくいられない。

私がどれだけ孝二を好きでも、逆に孝二がどれだけ私を好きでも、釣り合わないもん。


私には彼の隣に立つ資格なんて無い。
孝二にはもっと可愛くて楽しい子と結ばれて幸せになってほしい。






「ん、あなた? どしたん?」






孝二がそう言って私の顔を覗き込む。

こうやって私の不穏な空気をすぐに察知してくれるところ、かっこいいよなぁ。

かっこよくて、それでいて彼を諦めたい私に残酷だ。






『……何でもないよ。』






そうして私は嘘をついた。

大好きで憎たらしい彼の前で、心にぽとりと黒いインクを垂らすように。





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