第6話

移ろいゆく心
景久の突然の申し出に、私は驚きつつ、首を横に振った。


あれだけ外を嫌がっていたのだ。
笹良 直
笹良 直
あんまり他の幽霊と絡みたくないなら、無理しないで。
気持ちだけでありがたいから

心配でそう言うと、今度は景久が首を横に振る。
優木 景久
優木 景久
人間に対しては防御力ゼロでも、直に寄ってきそうな危ない幽霊を追い払うくらいはできるだろ?
だから、協力させてくれ

景久は、頑として譲らないつもりだ。
笹良 直
笹良 直
(確かに、暗い夜道で隣にいてもらえるだけで、心強かったもんな……)

それ以上強く言えなくなってしまって、私はようやく頷いた。


人の厚意は、ありがたく受け取るべきだと学んだばかりだ。


そして、景久の気持ちが嬉しかった。
笹良 直
笹良 直
それなら……お願いします
優木 景久
優木 景久
ああ、任せろ

自分の胸をどんと叩いて、景久は張り切っている。
笹良 直
笹良 直
それで、この部屋のことなんだけど。
景久はずっとここにいるの?

景久の機嫌がよさそうなうちに、気になっていることを聞くことにした。


相手が幽霊とはいえ、さすがに同居というのは生活しづらい。
優木 景久
優木 景久
あ、そうか……!
着替えとか寝てる間とか、男がいると気まずいよな。
じゃあ、直が部屋にいる間は、俺は一階に降りるわ。
何かあったら呼んで?
笹良 直
笹良 直
そうしてもらえると助かる……!
優木 景久
優木 景久
ただ、こっちの方が日当たりがいいしさ、昼寝だけはさせてくれよ。
じゃあ、おやすみ
笹良 直
笹良 直
お、おやすみなさい……

景久はすんなりと受け入れてくれて、床をすり抜けて一階へと降りていった。
笹良 直
笹良 直
幽霊って便利だな……

感心したのも束の間、早いところお風呂に入って寝なければならない。


明日からは大学も始まるのだ。


着替えを準備して、浴室に向かおうとしたところで、私はぴたっと足を止めた。
笹良 直
笹良 直
(そうだった!
この部屋、お風呂がなかったんだ!)

今になって、大事なことを思い出した。


アパートを契約する時に、近所で二十四時間営業している銭湯を調べたはずなのに、すっかり忘れていた。


こんな遅くに、今からまた外を出歩くのも心細いし、気が滅入る。
笹良 直
笹良 直
(明日の朝まで我慢しようかな……。
でも、今日はいろんなことがあって疲れてるし……)

翌朝になって、慌ただしくバタバタと銭湯に行くのも嫌だ。
笹良 直
笹良 直
……よし

私は部屋を出て、思い切って一階へと降りた。


部屋の外から、景久の名前を呼ぶ。
笹良 直
笹良 直
景久、まだ起きてる?
あの、銭湯に行くの忘れてて……。
よかったら、付き添ってもらいたいんだけど
優木 景久
優木 景久
おー、いいよ!

中からくぐもった声がしたかと思うと、ドアをすり抜けて景久が出てきた。
優木 景久
優木 景久
ちゃんと俺に言いにくるって、偉いじゃん~

頼られたことが嬉しいのか、景久はへらへらと笑う。
笹良 直
笹良 直
(全然嫌そうじゃない。
今日初めて会ったのに、景久といると、なんだかほっとするな)

私の胸の奥で、微かだけど確かに、何かが変わる感じがした。



【第7話へ続く】