時間の許す限り、私たちは他の学生にもコンタクトを試みたけれど、やはり誰も景久について詳しくは知らない。
景久が本来なら私と同い年で、何らかの理由があって休学しているということだけ掴めたが、それ以上は情報が集まらなかった。
私たちが解散しようとしたところに、ふと、音もないのに人の気配が近づいてきた。
景久は悪気のない笑顔で謝りながら、朝陽先輩がまだ近くにいることに気付いた。
先輩はにっこりと笑って、景久に話しかける。
景久は突然のことに動揺したらしく、私たちを驚きの表情で見つめた。
私が頷くと、数秒かけて、景久は落ち着きを取り戻していった。
私が冗談っぽく反応してみせると、景久は言葉とは裏腹に、寂しそうな表情を見せる。
予鈴が鳴り、午後の講義のために私と朝陽先輩はそこで別れた。
景久は、私の隣を歩いて、構内をキョロキョロと見回している。
そうして、互いにしばらく黙っていたのだけれど、先に口を開いたのは景久だった。
なぜ、今になってそんなことを言うのだろう。
私は両頬を膨らませた。
駄々をこねる子どものように私が拗ねた声を出すと、景久はうろたえた。
先輩との仲は良い方かもしれないが、付き合うなんてそんなのは夢のまた夢だ。
照れ隠しに大声を出して否定したので、通りすがりの学生たちに驚愕の目で見られてしまった。
【第11話へ続く】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。