第4話

成仏の仕方
夕方になり、私はアルバイトのために外へ出かけた。


景久に見られないうちに、『幽霊』『成仏』『方法』といった単語をスマホで検索してみるが、信憑性のないオカルトなサイトしかヒットしない。


溜め息をつくのと同時に、バイト先の書店に到着した。


裏口から入って倉庫の横を通り、更衣室で着替えを済ませる。


事務所の扉を開けると、八森はちもり朝陽あさひ先輩が先に来ていた。
笹良 直
笹良 直
おはようございます、先輩
八森 朝陽
八森 朝陽
おはよう。
今日も頑張ろうね

朝陽先輩は、文字通り大学の薬学部での先輩であり、ここのアルバイトとしても先輩にあたる。


普段から面倒見がよくて、優しい先輩だ。


そして、ついでに言うと、私が密かに想いを寄せている相手でもある。
笹良 直
笹良 直
(まあ、おしゃれに無頓着で地味な女子なんて、先輩も興味ないだろうな……)

ふたりで引き継ぎノートと業務内容を確認して、店内に出た。


しばらくは慌ただしくお客さんの対応をしていたけれど、日が落ちてからは客足も落ち着いてくる。
笹良 直
笹良 直
ふう……

明日の朝入荷する新刊のコーナーを準備し終えて、息を吐く。


ふと、背後から視線を感じて、振り返った。


朝陽先輩だ。
八森 朝陽
八森 朝陽
今日、いつになく疲れてる気がするんだけど、大丈夫?
笹良 直
笹良 直
そうですか?
あ、実は今日、アパートを引っ越したんですよ。
その気疲れかもしれません

朝陽先輩は鋭い。


私自身ですら気付かない変化を、よく見ている人だと思う。
相楽 実里
相楽 実里
え、直ちゃん、引っ越したの?
笹良 直
笹良 直
はい。
ちょっとでも家賃を切り詰めたくて……。
古いアパートですけど

朝陽先輩の後ろから顔を出したのは、相楽さがら実里みさとさん。


この系列書店の社員であり、みんなのお姉さん的存在だ。


彼女もまた面倒見がよく、いつも明るくて気が利く人だ。
相楽 実里
相楽 実里
ほんと、直ちゃんはいつもしっかりしてる。
でも困ったことがあったら、何でも言ってね?
八森 朝陽
八森 朝陽
僕に相談してくれれば、下宿先を紹介できたのに。
女の子ひとりで大丈夫?
笹良 直
笹良 直
ふたりとも、ありがとうございます。
大丈夫です
八森 朝陽
八森 朝陽
それならいいけど。
……笹良さんは何でもひとりでやろうとしてしまうから、いつでも頼ってほしい
相楽 実里
相楽 実里
そうそう、朝陽の言うとおり。
男子に言いづらいことは、私にでもいいから

その気持ちはありがたく受け取り、私は頷いた。
笹良 直
笹良 直
(幽霊がいるんですなんて、相談できないもんね。
あの人、せめて一階に行ってくれないかな……)
八森 朝陽
八森 朝陽
…………

心配そうに私を見つめる朝陽先輩に笑顔を見せ、私は業務へと戻った。



***



アルバイトが終わった頃には、外はすっかり暗くなっている。


これも毎日のことだ。
笹良 直
笹良 直
それじゃあ、お疲れさまでした
八森 朝陽
八森 朝陽
あ、待って。
僕がアパートまで送るよ

先に帰ろうとした私を、朝陽先輩が引き留めた。


今までも、急なシフト変更で遅くなった時は送ってもらったことがあるけれど、今日は普段通りだ。
笹良 直
笹良 直
でも、前の家とそんなに距離は変わらないですし。
先輩の家と逆方向になるんじゃ……
相楽 実里
相楽 実里
直ちゃん、送ってもらいなよ。
そうしてもらった方が、私も安心。
何かあってからじゃ遅いし
笹良 直
笹良 直
実里さん……

実里さんはにこにこしながら、私と朝陽先輩を何度も見比べる。


夜道は慣れたものだけれど、ふたりがとても心配するので、今日のところは厚意に甘えることにした。


……朝陽先輩と並んで歩くのは、緊張してドキドキしてしまうのだけれど。
笹良 直
笹良 直
それなら、よろしくお願いします
八森 朝陽
八森 朝陽
分かった。
じゃあ、行こうか

ふたり揃って店を出たところで、人影を見つけた。


目を凝らすと、アパートの部屋にいるはずの景久が、なぜか立っている。
笹良 直
笹良 直
うっ……

思ってもみない変な声が、不意に口から出た。
八森 朝陽
八森 朝陽
どうしたの?
笹良 直
笹良 直
先輩、やっぱり大丈夫です!
ひとりで帰ります!
八森 朝陽
八森 朝陽
えっ!
ちょっ……笹良さん!?

私は先輩に頭を下げ、きびすを返すと、景久の前を通り過ぎて一目散に駆けだした。
優木 景久
優木 景久
お、おい! なんで逃げるんだよ!
迎えに来たのに!

そんな私を、景久も追いかけてきた。


【第5話へ続く】