約三年ぶりに会った景久は、少しやつれてはいるものの、やっぱりイケメンだ。
景久に好きだと言われて、私は放心状態のまま、景久の肩と頬と手を順番に触れる。
今度はちゃんと温かさのある肌に、指先が当たった。
私が笑えば、景久もまた笑う。
泣くまいと堪えていた涙が、瞳に膜を張った。
きっと目を覚ましてくれると信じて待っていた日々は、思い返してみると、寂しいものだったのだ。
私は頷き、大きく息を吸い込む。
たまらず、景久の胸に飛び込んだ。
景久も強く抱き留めてくれる。
触れられる体温が、たまらなく愛しい。
今、もしかすると一生分の幸せを噛みしめているんじゃないだろうか。
そんな錯覚を起こしてしまう。
ちょうど、朝陽先輩が実習から帰ってきた。
私たちは慌てて離れたけれど、抱き合っていたところをばっちり見られている。
先輩が私と同じ反応をするので、私と景久は顔を見合わせて笑った。
***
みんなで椅子に掛け、景久の話を聞いた。
彼は今から約一ヶ月前に目を覚まし、検査や栄養管理、リハビリを経て、無事に退院したとのこと。
景久の母親はやはり連絡をくれなかったけれど、それは故意ではなく、景久の看病につきっきりで単に余裕がなかったらしい。
景久はバッグから一枚の履歴書を取り出した。
経歴、特技から趣味、自己PRまでびっしり書かれている。
喜ぶ私と対照的に、朝陽先輩は信じられないといった様子で口を開けている。
景久は自分のやりたいことを諦めていたからこそ、私はその夢を全力で応援したいと思った。
朝陽先輩が、珍しく強気で景久を牽制した。
しかし、景久はどこ吹く風だ。
肩を抱き寄せられ、そう言われた。
嬉しくてたまらなくて、胸の奥がぎゅっとなる。
幽霊に恋をしてしまう人間なんて、世の中には私ぐらいしかいないだろうけれど……。
今回、景久が戻ってきたのは、結果論かもしれない。
もし、景久が目を覚まさなくても、私はずっと彼を想い続けただろう。
――よって、幽霊に恋をするのは、私にとってはアリなのでした。
【完】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。