思い出せる限りの事情を、景久は語る。
バイクは「何かあると困るから通学に使うな」と、父親に反対されていたらしい。
景久はそれに反発して、自分の貯金で免許をとり、バイクも買って、通学に使っていたそうだ。
その結果事故に遭い、重体となっていつ目を覚ますかも分からない状況にある。
自分の体を目の前に、感情の置き所が分からないのか、景久は淡々と話した。
私の質問に、景久は乾いた笑いを漏らした。
ここまで徹底して景久の情報が隠されていたのは、景久の両親が、病院の評判を落とさないためにしたものだったのだ。
愕然とした。
きっと私の何倍も、景久はショックを受けている。
私の呟きに、朝陽先輩も同意するように頷いた。
景久が肩を落としているのが苦しくて、今すぐここで抱きしめてあげたいくらいだった。
生き霊となってしまった景久を、元に戻す方法なんて分からないし、景久本人がいつ目を覚ますかも分からない。
ただ今は、景久に寄り添っていたかった。
触れることはできないけれど、そっと彼の背中に手を伸ばす。
言葉では伝えきれない気持ちだけでも、伝わってほしいと思いを込めた。
朝陽先輩は私たちの気持ちを察して、病室を出て行く。
本当に優しい人だ。
その思いは景久にも伝わったようで、先輩が外から扉を閉めた途端に、涙を零していた。
【第18話へ続く】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。