第19話

起きるのを待ってるよ
1,314
2020/10/26 09:00
――あれから、三年が経った。


私は現在、薬学部の五年生に進級している。


薬剤師の資格をとるには、六年間大学に通う必要があるのだ。


近頃は実習もたくさんあって、以前にも増して忙しい日々を送っている。
笹良 直
笹良 直
ええと、これはこっちの棚で……

景久が目を覚ました時には連絡してほしいと、彼の母親に連絡先を渡してはいるものの、実際に連絡があるかは不明だ。


それよりも、目を覚ました景久がふらっと私のアパートに来ることを期待して、貯金もある程度できたのに、まだ引っ越さないでいる。
笹良 直
笹良 直
(早く会いに来ないと、卒業して引っ越しちゃうんですけど)

六年生となった朝陽先輩は実習が忙しく、今はあまり会えていない。


けれど、彼も景久のことはずっと気にかけてくれている。



というのも、あれから一度、朝陽先輩から告白されるという出来事があった。


ひっくり返るほどびっくりして、嬉しかったのに、断った。


以前なら即OKの返事をしていたはずだが、頭をよぎったのは景久のことだった。


一生報われない恋になるかもしれないということを分かった上で、私は景久が目を覚ますことに賭けた。


明日からは、私も実習だ。


研究室で準備をしながら、また景久のことを思い出す。
笹良 直
笹良 直
幽霊に恋するなんて、変なの。
あ、幽体離脱しちゃってただけだから、一応幽霊ではない……?
まあ、顔はかっこよかったし

今は私ひとりなのをいいことに、研究室で独り言を呟く。
優木 景久
優木 景久
誰の顔がかっこいいって?

突然、そんな声が背後から聞こえて、私はぴたっと手を止める。


息を呑み、そろーっと後ろを振り返ると、入り口に待ち望んだ姿があった。
笹良 直
笹良 直
うそ……
優木 景久
優木 景久
直が俺を起こす薬を作るまえに、起きちゃったよ
笹良 直
笹良 直
か、かげっ……?

言葉に詰まって、名前もちゃんと呼べない。
優木 景久
優木 景久
うん、景久。
それより、直の白衣姿は様になってるな。
頑張っておしゃれするのもかわいいけど、こっちが好きかも

褒め上手なのも相変わらず。


年月の経過を感じさせないほどの調子で、景久はにこやかに近づいてきた。
笹良 直
笹良 直
また幽体離脱しちゃった……?
優木 景久
優木 景久
あはは。
今回は本物です

確かに、足元は透けていないし、床についている。


それでもまだ信じられなくて、私は口元を手で覆って呼吸を荒くした。
優木 景久
優木 景久
やっぱり、あれは夢じゃなかったんだな……。
ふわふわふわふわ、長いことさまようような不思議な夢を見てた気がしたんだけど。
途中で俺と会話できる女の子が出てきてさ
笹良 直
笹良 直
それって……
優木 景久
優木 景久
その子、幽霊が見えるってだけじゃなくて、毎日本当に一生懸命生きてんの。
大変そうなのにいつも笑ってるし、俺のために死因を調べてくれたりもして。
そんな子がこの世にいるんだったら、好きにならないわけないだろって

幽体離脱していた間のことも、景久はしっかり覚えている。


再会できた感動と、喜びとで、私は一気に涙ぐんだ。



【最終話へ続く】

プリ小説オーディオドラマ