――あれから、三年が経った。
私は現在、薬学部の五年生に進級している。
薬剤師の資格をとるには、六年間大学に通う必要があるのだ。
近頃は実習もたくさんあって、以前にも増して忙しい日々を送っている。
景久が目を覚ました時には連絡してほしいと、彼の母親に連絡先を渡してはいるものの、実際に連絡があるかは不明だ。
それよりも、目を覚ました景久がふらっと私のアパートに来ることを期待して、貯金もある程度できたのに、まだ引っ越さないでいる。
六年生となった朝陽先輩は実習が忙しく、今はあまり会えていない。
けれど、彼も景久のことはずっと気にかけてくれている。
というのも、あれから一度、朝陽先輩から告白されるという出来事があった。
ひっくり返るほどびっくりして、嬉しかったのに、断った。
以前なら即OKの返事をしていたはずだが、頭をよぎったのは景久のことだった。
一生報われない恋になるかもしれないということを分かった上で、私は景久が目を覚ますことに賭けた。
明日からは、私も実習だ。
研究室で準備をしながら、また景久のことを思い出す。
今は私ひとりなのをいいことに、研究室で独り言を呟く。
突然、そんな声が背後から聞こえて、私はぴたっと手を止める。
息を呑み、そろーっと後ろを振り返ると、入り口に待ち望んだ姿があった。
言葉に詰まって、名前もちゃんと呼べない。
褒め上手なのも相変わらず。
年月の経過を感じさせないほどの調子で、景久はにこやかに近づいてきた。
確かに、足元は透けていないし、床についている。
それでもまだ信じられなくて、私は口元を手で覆って呼吸を荒くした。
幽体離脱していた間のことも、景久はしっかり覚えている。
再会できた感動と、喜びとで、私は一気に涙ぐんだ。
【最終話へ続く】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。