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第1話

イケメン幽霊とおんぼろアパート
不動産会社の社員
不動産会社の社員
それでは、笹良ささら様。
お部屋の鍵をお渡しいたします
笹良 直
笹良 直
ありがとうございます

今日は私が引っ越しをする日。


一年間だけ世話になった部屋を引き払い、より家賃の安いアパートに住むのだ。
不動産会社の社員
不動産会社の社員
念のため、再度ご確認したいのですが……。
本当に、このお部屋でよろしいですか?
笹良 直
笹良 直
はい、大丈夫です

まだ四月だというのに、不動産の担当者は大量の冷や汗をかいている。


築五十年以上経っているおんぼろアパートに、十九歳の女子大生が住むというのだから、無理もない。


アパートと言っても二階建てで、それぞれ一部屋ずつという簡素なもの。


私が住むのは二階だが、それでも普通の女の子なら、安全面を気にするものだろう。
笹良 直
笹良 直
少しでも家賃を切り詰めたいんです。
これから五年は住むつもりでいます
不動産会社の社員
不動産会社の社員
そうでしたね……。
失礼いたしました

はっきりと言い切った私を見て、担当者は張り詰めさせていた息をようやく吐いた。




私は養護施設の出身で、両親の顔も名前も知らない。


幼い頃から薬剤師に憧れ、勉強だけは必死にやってきた。


無事に大学に進学できて、学費は一部免除や支援を受けているけれど……。


生活のためにほぼ毎日アルバイトをして、ギリギリ繋いでいる。
笹良 直
笹良 直
それじゃあ、お世話になりました

鍵を受け取り、アパートへと向かう。


途中で、ふらふらと道を歩く〝ある男性〟とすれ違った。
男性
男性
足りない……。
原稿が一枚、足りないんだ……。
あれがないと出せないのに……
笹良 直
笹良 直
(作家さんだったのかな。持って行く途中で道に原稿を落としたとか?)

目を合わせないように通り過ぎる。


彼の足元は、ほんの少し透けていた。


――私には、幼い頃から〝人には見えない者〟が見える。


端的に言ってしまえば、〝幽霊〟だ。


視線を合わせて話しかけない限り気付かれないので、いつもこうして無視している。


昔は幽霊と知らずに一緒に遊んでいたこともあったけれど、悪意を持った幽霊に一度怪我をさせられたのをきっかけに、極力関わらないようになった。
笹良 直
笹良 直
(傍から見えれば、普通の女子大生ってだけなんだけども……)

どうしてこうも私は苦労することが多いのかと、たまに人生を呪いたくなる。


そんなことを考えていると、教えられた住所に着いた。
笹良 直
笹良 直
お、結構綺麗かも

鍵を開けて部屋に上がり、中を見渡す。


内見もせずに写真だけで決めてしまったのもあって、覚悟の中にも少しの不安が残っていたけれど、想像よりもずっと綺麗だ。


畳の上に寝転がり、シミだらけの天井を見つめる。


絶対に後悔はしないと心に誓って、ここに来た。
笹良 直
笹良 直
ここで残り五年……。
うーん、頑張ろう!

ひとりでそう呟いた瞬間。
優木 景久
優木 景久
誰が越してきたかと思えば、若いな。
ここ、セキュリティガバガバだぞ?

見知らぬ超絶イケメンが、私の顔を覗き込んできた。



【第2話へ続く】