第13話

消えた彼
1,484
2020/09/14 09:00
優木 景久
優木 景久
なんだ、デートじゃないのか。
そういや、聞きたいことってのは?

景久は私を観察するのを続けながら、そう聞いてきた。
笹良 直
笹良 直
香水をもらったんだけど、初めてつけるから程度が分からなくて……。
匂い、ちょうどいい?
キツくない?
優木 景久
優木 景久
ごめん。
俺、幽霊になってからは匂いが分かんないんだ
笹良 直
笹良 直
あっ、そっか……!
ごめん、分かんないよね。
私も忘れてた

彼は幽霊で、私は人間なのだと再認識させられる。


景久があまりにも人間らしくて、すっかり忘れていた。
笹良 直
笹良 直
(なんだろう……。
胸の奥がきゅうってなった……)

変な感覚を振り払うように、私はすぐに話題を変える。
笹良 直
笹良 直
じゃあ、香水は特別な時だけでいいかな
優木 景久
優木 景久
直が変な匂いさせてるわけないだろ。
つけなくて充分
笹良 直
笹良 直
えっ!
そ、そう?
……やっぱり、景久は褒め上手だね
優木 景久
優木 景久
全部本心だっての

優しい言葉に、笑みが零れた。



***



翌朝。


いつもの朝食をとっている私のところへ、景久は神妙な面持ちでやってきた。
笹良 直
笹良 直
おはよう……。
どうしたの?
優木 景久
優木 景久
おはよ。
俺ちょっと、実家見てくるよ。
一晩考えて、決心した
笹良 直
笹良 直
え……。
ひとりで大丈夫?
優木 景久
優木 景久
俺幽霊だし、向こうからは見えないから平気だって

そう言う景久が強がっているように見えて、余計に心配になる。
優木 景久
優木 景久
心配してくれてありがとな。
夜までには帰ってくる。
直の送り迎えしないと
笹良 直
笹良 直
分かった。
待ってるね
優木 景久
優木 景久
うん

景久は笑って出て行った。
笹良 直
笹良 直
…………

私も、本当はついて行きたかった。


でも、大学の講義も、同じくらい大切なこと。


学費免除を受けている身として、ひとつの単位も落とすことはできない。


ただ、持って生まれた第六感のせいか、少しだけ嫌な予感がしていた。



***



大学に到着した途端、朝陽先輩からメールで呼び出された。


昼休みに情報処理室で合流すると、先輩までも深刻な顔をしている。
笹良 直
笹良 直
先輩、どうしたんですか?
お話って?
八森 朝陽
八森 朝陽
優木くんが在籍していた大学に、問い合わせたんだ。
昔からの友人だが、連絡がとれないって設定で
笹良 直
笹良 直
え、それでどうなりました?
八森 朝陽
八森 朝陽
個人情報だから詳しくは教えてもらえなかったけど、休学中ってのは多分間違いないと思う。
会いに来ても会えませんよって言われた。
彼が亡くなっているとして、そんな風に言うかな?
笹良 直
笹良 直
(それってやっぱり、どう聞いても生きているようにしか……)

でも現に、景久は幽霊になっている。


彼が生身の人間だとは思えない。
八森 朝陽
八森 朝陽
それと、彼の実家である優木医院にも、遠方の友人だって装って電話を掛けてみた。
でも、怪しまれてすぐ切られたんだ。
母親っぽい人が出たよ
笹良 直
笹良 直
交友関係は口出しされてるって言ってましたから……。
お母さまの記憶に、先輩の名前がなかったからでしょうね
八森 朝陽
八森 朝陽
なるほど、そういうことか

ますます、謎は深まっていく。


私はもっと景久に興味を抱くとともに、どうしようもない、もやもやとした不安を覚えていた。
笹良 直
笹良 直
あの、実は景久は今日、その実家に行ったんです
八森 朝陽
八森 朝陽
そうなんだ。
じゃあ、彼が帰ってきたら、何か分かるかもしれないね
笹良 直
笹良 直
はい。
先輩もいろいろと調べてくれて、ありがとうございます
八森 朝陽
八森 朝陽
ううん。
僕もなにか協力したかっただけだから

進展があれば連絡すると先輩に約束した、その日の夜。




バイトのシフトの時間が近づいてきても、景久は帰ってこない。
笹良 直
笹良 直
(どうしたんだろう……。
こんな時、すぐに連絡がとれればいいのに)

私の不安は的中したようだ。


仕方なく、もうひとりで出かけようかという時に、朝陽先輩から電話が掛かってきた。
八森 朝陽
八森 朝陽
『どう? 優木くん、帰ってきた?』
笹良 直
笹良 直
……いえ、まだです
八森 朝陽
八森 朝陽
『そうか……。
なんとなくだけど、そんな気がしたんだ』

景久が帰ってこないのならと、今日は結局、朝陽先輩に送り迎えをしてもらうことになった。
笹良 直
笹良 直
(やっぱり、景久に何かがあったのかもしれない)

頭の中は景久のことでいっぱいだ。


次の休みの日に、優木医院に行ってみようと私は決断した。



【第14話へ続く】

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