静かな空間に、電子機器の音と、景久のすすり泣く声だけが響いている。
私は黙ったまま、隣にいる生き霊の景久と、横たわる景久本体を交互に見ていた。
目を閉じて横たわる景久は、いろいろな管やコードが繋がれていて、霊の景久より痩せているように見える。
眠ったままなのだから、無理もない。
髪も伸びているが、髭は綺麗に剃られていて、毎日きちんとケアされているのがよく分かる。
しんみりとした話をしてもしょうがないと、私は努めて明るく言った。
景久は鼻をすすりながら、いつもの自信を取り戻すかのように言う。
私が笑うと、景久もようやく少し笑う。
互いに顔を見合わせて、吹き出す。
景久が知らないなら、私が知るはずもない。
なんだかおかしくなってきて、私が笑い始めると、景久もつられて笑い始める。
こんな会話をしている場合ではないのかもしれない。
でも、今の私たちに必要なのは、他愛のない会話だった。
笑い声が途切れたころ、ふと、幽霊の景久が背筋を伸ばす。
私は苦笑いを浮かべた。
なぜだか、別れの時が近づいてきているような、胸騒ぎがする。
景久はもう一度優しく笑い、私に向き合った。
そんな言葉を残して、私がその真意を聞くよりも先に、景久は元の体へと戻っていった。
【第19話へ続く】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。