第18話

いつかまた、もう一度
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2020/10/19 09:00
静かな空間に、電子機器の音と、景久のすすり泣く声だけが響いている。


私は黙ったまま、隣にいる生き霊の景久と、横たわる景久本体を交互に見ていた。


目を閉じて横たわる景久は、いろいろな管やコードが繋がれていて、霊の景久より痩せているように見える。


眠ったままなのだから、無理もない。


髪も伸びているが、髭は綺麗に剃られていて、毎日きちんとケアされているのがよく分かる。
笹良 直
笹良 直
一年間寝てても、やっぱり景久はイケメンだね

しんみりとした話をしてもしょうがないと、私は努めて明るく言った。
優木 景久
優木 景久
……そうだろ?

景久は鼻をすすりながら、いつもの自信を取り戻すかのように言う。
笹良 直
笹良 直
あはは。
こんな時でも、調子のいいことは言うんだ?
優木 景久
優木 景久
こんな時だからこそ、だろ

私が笑うと、景久もようやく少し笑う。
優木 景久
優木 景久
……俺、死んだわけじゃないなら、もう一度生きたいな。
目、覚めないのかな
笹良 直
笹良 直
幽体離脱しちゃってるから、まずは戻らなきゃいけないんじゃない?
優木 景久
優木 景久
どうやって戻るんだろう?
笹良 直
笹良 直
こう、なんか……根性で?

互いに顔を見合わせて、吹き出す。


景久が知らないなら、私が知るはずもない。
笹良 直
笹良 直
それにしても、幽体離脱しちゃった人、初めて見た……
優木 景久
優木 景久
そうだよな。
俺も初めて幽体離脱しちゃったわ。
ずっと、俺は死んだんだと思ってた……

なんだかおかしくなってきて、私が笑い始めると、景久もつられて笑い始める。


こんな会話をしている場合ではないのかもしれない。


でも、今の私たちに必要なのは、他愛のない会話だった。




笑い声が途切れたころ、ふと、幽霊の景久が背筋を伸ばす。
優木 景久
優木 景久
直は、薬剤師を目指してるんだったよね
笹良 直
笹良 直
うん
優木 景久
優木 景久
もし、直が薬剤師になっても、俺がまだ眠ってたら、起こす薬を作ってよ

私は苦笑いを浮かべた。


なぜだか、別れの時が近づいてきているような、胸騒ぎがする。
笹良 直
笹良 直
それができるのは薬剤師じゃなくて、研究者だよ。
でも、そういう道も悪くないのかな……
優木 景久
優木 景久
直だったらなんでもできるよ。
努力家だし
笹良 直
笹良 直
……ありがとう。
景久がどうしても目を覚まさなかったら、考えてみる

景久はもう一度優しく笑い、私に向き合った。
優木 景久
優木 景久
俺、直に出会ってなかったら、ずっとあのおんぼろアパートにいたまんまだった
笹良 直
笹良 直
……うん
優木 景久
優木 景久
本当の自分と向き合わせてくれて、ありがとう。
もし目が覚めたら、直にもう一度会いたい

そんな言葉を残して、私がその真意を聞くよりも先に、景久は元の体へと戻っていった。



【第19話へ続く】

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