第3話

ここにいる!?
笹良 直
笹良 直
か、景久は褒め上手だね……

異性にかわいいと言われたのは、記憶にある限り初めてだ。


たとえ今だけでも、嬉しいし照れてしまう。
優木 景久
優木 景久
かわいいじゃん。
ちょっと地味だけど
笹良 直
笹良 直
(地味は正しいけど、余計だな……!)

景久は、きっと素直な感想を言っているのだろう。


私はつい愛想笑いをした。


さっきから表情を変えるのに忙しい。
笹良 直
笹良 直
(今までおしゃれには無頓着むとんちゃくだったもんな……)

これまで、勉強やアルバイトばかりに必死で、自分の見た目にまで気を配れていなかった。


いつかもう少し余裕ができたら、意識を変えてみようと心の中で決意する。
優木 景久
優木 景久
直がひとりでここに住もうってのには、何か理由があんの?
笹良 直
笹良 直
えっと……

私は、自分がいわゆる苦学生であることから、どうしても安いアパートに引っ越したいのだという事情を説明した。


景久は目を大きく開いた後、次第に考え込むように難しい顔をする。
優木 景久
優木 景久
ワケありとは思ったけど、そこまでだったとは……。
直はすごいな。
……偉いな
笹良 直
笹良 直
えっ。
それほどのことはしてないよ
優木 景久
優木 景久
そんなことない。
俺だったら絶対真似できない

感心したように、景久は言う。


やっぱり嘘を言っている様子にも見えないので、これも本心だろう。


自分のしてきた努力は間違っていないと思えて、私は嬉しかった。
笹良 直
笹良 直
景久だって、医学部に通えるってことはすごいことなんじゃないの?
優木 景久
優木 景久
いや。
俺は親の言うとおりに必死に勉強して、医大に合格したけどさ。
実家が病院で、俺はそこの長男ってだけで、継ぐつもりはほとんどなかったよ
笹良 直
笹良 直
そうなんだ。
じゃあ、本当は他にやりたいことがあったの?
優木 景久
優木 景久
ああ。
この〝恵まれた容姿〟のせいで、よく街でスカウトされててさ……

悩ましげに、景久は首を横に振る。
笹良 直
笹良 直
(自分で言うか!
確かにスカウトマンも放っておかないだろうけど……)

心の中で突っ込みながら、でも妙に納得してしまう。
優木 景久
優木 景久
芸能界っていうのか。
タレントとか俳優とか、そういう仕事に興味があったんだ。
でも親の目があるから、スカウトの話は全部断ってた
笹良 直
笹良 直
ええ……。
もったいない

とことん、住む世界が違う人なのだと感じる。


でも、彼は彼なりに、両親のために我慢してきた部分があるはずだ。


その点、自分の好きなようにできた私は、もしかすると彼より恵まれているのかもしれない。
優木 景久
優木 景久
死んでしまうくらいなら、好きなことをやっておくんだったと思ってたけど。
今思えば、俺は恵まれてた。
自分で働いたお金で自分を養って、夢のために学校行くなんて、本当にすごいな……
笹良 直
笹良 直
景久……

景久は笑いながらも、肩を落としている。


死んでしまったら、将来に広がっていた可能性も、全部なくなってしまうのだ。


何か言葉をかけてあげたいのに、見つからない。
笹良 直
笹良 直
あの、これからどうするの?

頑張って話題を変えようとして出てきたのは、そんな言葉だった。
優木 景久
優木 景久
成仏の仕方が分かんないしな……。
まあ、話し相手ができて嬉しいし、ここにいる

景久は顔を上げ、にこにこと語る。


私は頷きかけて、動きを止めた。
笹良 直
笹良 直
……はい?


【第4話へ続く】